自分の中にないものを埋めるように物語をつくっている(ゲスト:細田守)【後編】

ピクサーに対する率直な思い

澤本:いやいや、元の企画、脚本は細田さんが中心になってやりますよね。僕はピクサーも大好きで、見ると号泣するけど、あれは世の中の全ての人が知恵を出し合って、一番いいのをつくったらこうなるだろうという話だから。個の話も聞きたいけどね。

中村:あれは現場の人としてはどう思うんですか?僕も本でしか読んでないですけど、「ブレイントラスト会議」という、監督、脚本の人などが集まって、途中段階まで見せて、ああだこうだと言って、初めはどれもしょうがない作品だったのが仕上がっていくという独特のやり方だと思うんですけど。

細田:そうですね。僕は以前、『おおかみこどもの雨と雪』のときにピクサーに行って、そのときは、話をしながらそれぞれの国のつくり方の違いということの中で、よりよい作品をつくるにはどうすればいいかというディスカッションをしたことがあったんですね。

まず、ピクサーのみんなに驚かれたのは、絵コンテを僕1人で描いているということでした。そんなこと絶対にありえない、すごいと言われるんだけど、僕からしたら1人で描くのが当たり前というか、監督が絵コンテを描かないでどうするんだという気もするんだけど。

あと、ピクサーはジョン・ラセター、ブラッド・バード、アンドリュー・スタントンなど、中心になる何人かがいて、その人達がそれぞれの企画を全部裁定してるというのかな。だから、個性が、そこから上がっていくというのが難しいと。つまり、ピクサーブランドとして品質は保てるのかもしれないけど、そのかわり、何かをやりたい人の尖った部分が全部削られちゃうと。

品質は確かに良いかもしれないけど、映画としての個性、つくり手としての独自性が抑えられちゃうと。それが映画づくりにとっていいのかという議論がそこでありましたね。でも、彼らは3年に2本と言っていたけど、そのスケジュールにも合わせないといけないし、このやり方しかないんだと言っていました。

僕は「自分の作品をつくればいいじゃないかと思う」という話をしてきたわけですよ。

中村:なるほど。

細田:自分で全部責任をもってやるべきなんじゃないかと。その環境として、ピクサーでそれをやるのか、もっと別の会社、自分で会社を立ち上げるでもいいし、別のところで主体性を握れるのかというのは別の戦いで。だから、どっちかだよね。僕は主体性を握ることが作品の重要な条件、いい作品の条件だと思うので。

主体性を発揮するためには大きなスタジオでバシバシやれなきゃいけないというか、叩かれて、欲求不満をためて、そこからバーッと出るということもプロセスとしては大事なんだという気がします。

中村:最後に、めちゃくちゃディープな話が出ましたね(笑)。この続きが居酒屋で行われそうな気もしますが、というわけで、いよいよ明日から『未来のミライ』、上映開始なのでみなさん映画館にぜひ足を運んでください!

<END>

構成・文:廣田喜昭

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