通勤電車で妄想ツイートを始めたら「書く道」が開けた、夏生さえりさんの半生とは

文章を扱う仕事に就けた、それだけで幸福だった

大学卒業後、運良く拾ってもらったのは小さな出版社だった。ブログを目にした社長に、声をかけてもらったのがきっかけだ。編集の仕事を始めてすぐにわかったことは、「とてもじゃないけれど書く仕事に就くなんて無理」ということ。これはとても鮮やかな諦めだった。完敗、というか。

1冊分のずっしり重い原稿を前にして、読む前からため息がでた。これだけの分量を書く体力や、圧倒的な表現力、そして自分との差異。ああ、こういう人が文章を書く仕事に就けるのかと納得した。

そしてわずか1年の編集経験を経て、転職。今度はITベンチャーで、ウェブメディアの編集者になった。書籍とは違う、恐るべきスピードで進む記事制作。ここでも、短い期間で面白い原稿を上げてくれるライターさんをどれだけ尊敬したことか。たくさんの原稿を読みながら、わたしにはなかった視点をたくさん勉強させてもらった。導入はこうすると面白いのか、要らない文章はこんなにも多いのか。

そのうち、“文章を書きたい”という夢は忘れてしまった。それでも、よかった。編集の仕事は想像以上に面白かったのだ。文章を扱う仕事に就けた。それだけで十分に幸福だったように思う。けれど、遠く過去の夢を忘れた頃から、わたしの「書く仕事」への道がしずかにしずかに開けてきたのだった。

次ページ 「通勤電車は“妄想ツイート”の時間」へ続く

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