通勤電車で妄想ツイートを始めたら「書く道」が開けた、夏生さえりさんの半生とは

決意も覚悟も不安もなく、迎えた独立の日

同時期に、記事を書かせてもらえる機会ももらった。会社では、社員が必ず月に1本自社ブログの記事を書くことになっていたのだ(当時、そのブログは月に約500万PVもあった)。ノルマだからとないがしろにせず、せっかくならたくさんの人に読んでもらえる記事をつくろう。そう決め、自分で企画を立てて記事をつくった。

「【渋谷】仕事が嫌になったので、ハロウィンで仮装している人の『職業』を聞いてみた」「本当に『私以外私じゃないの』か?東大の哲学教授・梶谷真司先生に聞いてみた」など。結果的に、これらは10万PVを超えることになった。

徐々に、「ブログで見ました」「Twitter、見てます」と言われるようになり、副業として「記事を書きませんか?」と声をかけてもらえるようになっていった。今はとにかくウェブの書き手が足りない時代。わたしのような未熟者にも、門は開かれていた。頼まれたら、やってみるしかない。

そしてついに月に数回、出張に来てほしいという副業の依頼があった。(今になって考えれば、たったそれだけで辞めてしまうのもどうなのかと思えるけれど、)新しい仕事を断りたくなくて、わたしは仕事を辞めることにした。独立は、あっけなかった。文章を書く人になれるか? と、田舎の部屋でありとあらゆる疑問と不安にまみれていたわたしは、もはやどこにもいなかった。決意も覚悟も不安もなく、自然の流れでフリーランスになった。そうして気づけば、2年が経っている、というわけだ。

もちろん、立ち止まってしまう日もある。仕事を引き受けた後で、「こんなのわたしに書けるわけない……」と後悔する日も。けれど、目の前のことをひとつひとつきちんとやっていれば、いつのまにか前へ進めている。書籍はこの1年ちょっとで、4冊出版してもらった。あんなに「絶対無理」と思っていたのに。

最近では、ショートストーリーや映像のシナリオ制作、漫画の原作の仕事もいただくようになった。もちろん、恋愛系のコラムや専門家インタビューといったウェブ記事も書き続けている。

新刊の出版記念イベントでサインをする夏生さん。ファンは10代の女性が多いという。

次ページ 「「届けたい」という気持ちは、どんな書き手も同じ」へ続く

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