兵庫県西脇市で実践する、新たな“人材の地産地消”と働き方

戦う理由は、あの時の10秒のために。だからこそ電通で頑張りたい。

電通の大森さんと、ヘソノオプロジェクトの大森さん。「関西で戦う」にも登場していただいた兼松佳宏さんの「BEの肩書き」のように、役割や関わり方によって「肩書き」を変えていくのが戦略的だし、健康的だなと田中は思います。そんなユニークな働き方も電通での仕事との両立は難しいはず。なぜ、大森さんは電通を辞めずに、2足のワラジを履いてどちらも情熱的に取り組んでいるのでしょうか?

—以前、「関西で戦う」に前田将多さんという大阪でレザーストアを営まれている方に登場していただいたのですが、もともと電通にいらっしゃって。会社を辞めてカウボーイになったのですが。

大森:え!あいつ同期ですよ!大好きな同期の1人。あいつも取材されたんですね。

—同期だったんですね!

大森:僕は東京で、電通で働きながら、西脇ヘソノオプロジェクトを本気でやっているのが楽しいし、辞めないことに価値を見出しています。もちろん辞める潔さもいいと思う。ショータもよく似たことを考えていると思うけど、働き方を変えるということは、働くことの意義は何かを問うことだと思うのです。仕事って、稼ぐことではなくて、お金をどう創って、どう分配して、どうやって人々を幸せにできるか。世の中の全ての人々の笑顔を見届けてから最後に自分が笑えてはじめて働いたことになると思うのです。

今の経済システムでは、効率よく稼いで最初に笑っちゃう人が多すぎるような。 まあ、株主のために四半期で数字出さないといけないので、しょうがない部分があるものの。人生の大半を仕事と向き合わなければならない以上、働き方は「生き方」そのものですから。時短とかIT化とかの効率論ではなく、本当の意味で「働き方を変えてみたよ」ということを実践し続けて、一人、また一人と働くことの意義を意識する人が増えてくれたらいいな、と思っています。

—どうして、そこまで会社のためにできるんですか?

大森:入社して心身ともにボロボロになることもありました。でも、僕はあの10秒のためにやっているんだと思います。

—10秒?

大森:僕、本当に電通に入りたかったんです。でも、コネもツテもなくどうすれば入社できるか分からなくて、電通本社の前で「お話を聞かせてください」ってうろついてたぐらいなのです。終業時の17:30に降りてくる人は多くが派遣社員だったということも知らずに。

はるやまのリクルートスーツを着て派遣社員の方々を追っかけまわしていたので、ただの変態大学生です。でも、なぜか最終面接まで行き、何をやれば受かるのだろうかと悩みました。で、新宿のドン・キホーテでほうきとちりとりを買って最終面接までの1週間、電通本社の前を掃除したんです。なんでそんなことやったのか?って聞かれても分からないのですが。

とにかく最終面接で何かしらの自信というか、電通に対する愛というか、オーラを感じて欲しかったんでしょうね。ちょうど創業100年というタイミングで、この100年の歴史の中でも僕のようなことをしたやつなんていないだろうし、この先100年もいないだろうと。じゃあ、200年に1人しか採用がなかったとしても受かるんやないやろか?って(笑)アホですね。前日の夜には風呂上りに鏡の前で湯気を出してオーラを出す練習をしましたしね(笑)。そういう想いで最終面接に臨みました。

面接では奇をてらわず、聞かれたことだけ答えてあとは黙っていました。とにかくオーラを感じて欲しかった(笑)。最終面接までは、お笑いをやっていた経験を生かし、コントとか色々やったんですけどね。で、後日の話。採用が決まれば夜の8時30分までに電話が来るって言われていて。でも45分になっても来なかったので、内定をとっていた商社かテレビ局に行こうと半ば諦めかけていたのですが、9時過ぎに内定の電話が来たんです!電話が来た時、現実に思えなくて。

マンガみたいに自分の頬を10秒つねりました。「ほんまやん。」て。時間にしてたったの10秒ですが、この上ない喜びを僕の人生に与えてくれた。入社してからの仕事でも、もちろん色々なことを経験できた。でも何よりもその10秒の喜びに代えられるものがなく、感謝してもしすぎることなくて、何十年かけても返したいと思っています。だからこそ辞めるという選択肢はまるでなく、自分ができるものなら、もっともっといい会社にしたい。

—面白いですね。会社にいないと、会社のことは変えられませんもんね。

大森:会社を辞めて自分がやりたいことをやるというのも、自分の寿命単位で考えると素晴らしいと思う。でも、組織にいながら個々が働く意義を追求し、いい方向に軌道修正ができれば、それはもっと大きなうねりとなって面白くできるのでは?と思っているんです。なぜ法人が存在するかというと、個人の寿命が80年しかないから。でも、時代と共に微修正されることはありながらも、法人のフィロソフィーは永遠に引き継がれていきます。

そこに法人に所属して働くことの醍醐味があると思うのです。「ヘソノオプロジェクト」は広告業界が好きな「拡散」とか「バズ」とかからは距離を置いています。なぜなら、地域循環経済の確率がゴールだから。 でも、人づてにヘソノオプロジェクトのことを聞きつけて、問い合わせに来てくれる人も出てきました。こういう仕事をしてみたいという想いが少しずつ広がりつつあるのを実感しています。

—東京でバリバリやりつつ、西脇市でもバリバリやる。どちらも仕組みをどう変えるか、関わる人がどうやったらもっと楽しめるかという舵取りをしているんですね。どちらもこれから先がどうなるか楽しみです!でもお身体だけは気をつけてくださいね。今日はお話ありがとうございました!

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田中裕一(かたちラボ・コピーライター)
田中裕一(かたちラボ・コピーライター)

広告制作プロダクション勤務を経て、2012年に大阪・兵庫など関西を中心に展開するクリエイティブカンパニー「かたちラボ」を設立。関西のクリエイターと協働して、企業ブランディングやCI構築、事業計画立案、紙ものやWEBサイトなどの制作を行う。

田中裕一(かたちラボ・コピーライター)

広告制作プロダクション勤務を経て、2012年に大阪・兵庫など関西を中心に展開するクリエイティブカンパニー「かたちラボ」を設立。関西のクリエイターと協働して、企業ブランディングやCI構築、事業計画立案、紙ものやWEBサイトなどの制作を行う。

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