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「DAZZLE」主宰の長谷川達也に聞く、「破壊的イノベーション」の起こし方。
ダンスとクリエイティブについて語ってきた当コラムもいよいよ最終回。
義務教育化によってダンスリテラシーを持った人間が爆発的に増えていく環境の中で、どのようなクリエイティブが生み出されていくのかを考えてきましたが、読んでくださっている方の中には「では、書いているこの人自身はどんなものを作っているのだろう?」と思われた方もいることでしょう。
今回は、自分自身が所属するダンスカンパニー「DAZZLE(ダズル)」の主宰である長谷川達也との対談形式で、DAZZLEの取り組みを実例としてご紹介することで、ダンスの可能性を感じて頂くことができればと思います。
DAZZLEが結成されたのは1996年。私が参加したのは2006年です。DAZZLEは結成当時から「すべてのカテゴリーに属し、属さない曖昧さ」をスローガンに、ストリートダンスとコンテンポラリーダンスを融合させたオリジナルダンスを創造してきました。その歴史から、まずは振り返ります。
飯塚:近年のビジネスやマーケティング領域でキーワードの一つとなっている「破壊的イノベーション」という観点で、DAZZLEの歴史を振り返りたいと思います。
破壊的イノベーションとは既存の価値観では従来製品より性能が低下しているように見えて、新しい価値基準では優れた性能や特徴を持つ製品や、それがもたらす価値転換のことです。みんなが音質を追求しているときに、圧縮して音質が低下しても大量の楽曲が入ることを価値にしたiPodや、フィルムカメラからデジタルカメラへの移行プロセスも分かりやすい例だと思います。
そもそも、DAZZLEは1996年の結成時からストリートダンスのフィールドでありながら、他の人たちと全く違うダンスをやっていましたが、それはなぜですか?つまり、ストリートダンスという既存ジャンルの中で、全く違う軸を打ち立てようとしているように見えました。
長谷川:ダンスの世界で名を上げたいと思ってDAZZLEを結成しましたが、その一番の近道が「ジャパンダンスディライト」などコンテストで優勝するということだと考えていました。
では、コンテストで勝つ、注目されるにはどうしたら良いかと考えた時に、独自性こそが最も重要だと気付いたんです。
誰かの真似をしていても価値は薄れると思ったし、先人に技術で及ばない僕たちが勝つためには、アイデアで勝負するしかない。
他のダンサーたちがこぞって踊る技術を競い合う中で、選曲、構成、衣装など、ダンスを作品として総合的に意識していたことが違いでもあったと思います。
そしてそれら全ての選択のベースが、オリジナリティの追求でした。
飯塚:その試みが少なからずダンス界に衝撃を与えて、ジャパンダンスディライトでも準優勝し、テレビ番組でも見かけるようになりました。
ストリートダンスを始めたときに、普通は最初にオリジネーター(各ダンスジャンルを成立させたダンサーたち)へのリスペクトとその動きを真似るところから入る訳ですが、自分は「新しいダンスジャンルを作る」という形のリスペクトの方法もあるのではないかと思っていて、それを実践しているのがDAZZLEでした。
さらにコンテンポラリーダンスも取れ入れるようになり、舞台活動へ。今や、ストリートダンスにコンテンポラリー的な要素が入っているというスタイルは世界的にも多くのダンサーが挑戦していますが、その先駆的存在だったと思います。
長谷川:コンテストでは念願の入賞を果たすことができたましたが、それはオリジナリティに理解のある海外のゲストが審査員に名を連ねていたから。それ以降は入賞はおろか予選を突破することも叶いませんでした。
それもそのはず、ストリートダンスという文化を極めたい、広めたいと考えているコンテストにおいて、僕たちのようなスタイルはその枠からはみ出していましたから。
一つの文化、ジャンルを追求し、深めていくことはとても素晴らしいし、それを否定するつもりは全くないのですが、僕はそれよりも人が感動することは何かを追求したかったんです。
そのためにできることは何でもしたかったので、異ジャンルを取り込むことに抵抗はなかったし、その文化の中で常識とされることやルールを無視することもたくさんしてきました。
だからこそ異端扱いをされることもありましたけど、誰に何と言われようと、これで間違ってないと思っていました。
コンテンポラリーダンスに興味を持ったのもその頃ですね。短ければ3分、長くても10分にも満たない長さだったストリートダンスの作品に比べて、一人で20分30分踊って作品が成立するというコンテンポラリーダンスには、作品にコンセプトや物語があり、動きに意思や意味を持たせることでそれを可能にしています。
ストリートダンスの高揚感とコンテンポラリーダンスの作品性を融合したDAZZLEにしかできない表現は、きっと舞台こそが最もふさわしいと思って、舞台へと活動場所を移行していきました。