あなたはすでに書くという仕事を行っている
そういうわけですから、いまの私にとって、書けない、ということはありません。かんたんなことです、困ったら、先達の戦いのあとを辿ればよいのです。あなたがいまお読みになられているこの文章さえ、鼓直さんが訳した、ボルヘスの講演集の文体を模しています。
しかし、これから作家として、誰ひとり考えたことのない未開のテーマに挑むとき、ほんとうの挑戦がやってくるのだろう、と思っています。
そして、書くことのやりがいは、実はこの挑戦そのものにあります。自分自身が組み上げた有機的な言語システムにおける構造上の問題、物語上の問題、そしてなによりも、倫理上の問題が立ち現れてきたとき、それらの問題を対処しようとする自分の魂のありようが思いもよらない形で明らかになり、どこかぜんぜんべつの光に満ちた世界へと運ばれていってしまう、あの法悦の体験にあります。
ですから、自分の書いたものが仕事にならないと悩む方がもしいらっしゃれば、私に言えることはひとつだけで、これは断言できます。あなたはすでに書くという仕事を行っている。それこそがもっとも大切なことで、ほかはすべて些事です。
「もっぱら呑むのが好き」という藤田さん。編集部が撮影のため自宅を訪れた際にも、ダイニングテーブルには一升瓶……。何やら深めの晩酌をしていた様子で、「撮影ってことは分かってたんですけどね、すみません!」と顔を赤らめる一面も(編集部)
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