マーケターが思うほど大きくない、ブランド別の購買者の差異
また、バイロン・シャープ氏が『ブランディングの科学』で述べた論の前提となる根拠は、①同カテゴリーのブランド別の購買者の差異はないということ。男女差、年齢差のようなデモグラフィック的な差異は、同カテゴリーのブランド間の有意な差異は見られない。つまりブランド別の購買者の差異はマーケターが思うほど大きくはありません。②コトラーが「ターゲットマーケティング」をライフルアプローチと呼んでいるような、ブランドごとに明確に分けられた市場セグメントはない。③カテゴリー内の購買者はブランド間で重複していて、大きなシェアを持つブランドは他ブランドの購買者の重複率も同様に高い(購買重複の法則)。つまりペプシの購買者は、かなりの割合でコークも買っているということです。
これは森岡氏風に言えば、ブランドの市場シェアは購買者のブランドに対するプレファレンスによって決まるのであって、購買者の特長によってではない、ということになります。
カテゴリーを狭く定義すると、ブランドマネージャーは偽物の安心感にだまされてしまう。結果的に市場の開拓は期待を大きく下回ることになる。ブランドマネージャーは自分のブランドが市場で大きなシェアがとれるようにカテゴリーを定義しがちである。(『ブランディングの科学』より引用)
さらにバイロン・シャープ氏は代理店や調査会社がよく使うブランドイメージごとの知覚マップについても注意を促しています。なぜならそのような図では顧客が重複するという表現がしにくいからです。彼はあるオーストラリアのフレーバーミルクの例をあげて、知覚マップは必要以上に差異を強調し、異なったセグメントが存在するかのように錯覚させると指摘しています。
もちろんUSJにしろ、ファミリー層やハロウィンパーティに来るような若者など、特定のターゲット層は狙っていますが、その目的は全体の「総合エンターテインメントテーマパーク」としての魅力を高めるためであって、森岡氏の言い方では新規顧客を増やすことで「水平方向に伸ばし、プレファレンスを強化」していくことにあるのです。
そして、その際には映画のファン層のプレファレンスを毀損しないことが条件になるわけです。森岡氏が「経験的に水平拡大のほうが成功する場合が多い」と述べている内容について、バイロン・シャープ氏は著書内で著書、ブランドが成長する際に狙うべき購買層はライトユーザーである新規顧客しかない、とまで断言しています。
また過度なターゲティングをすべきではない、という考え方は突き詰めていくとデジタルマーケティング上でのターゲティングも、やればやるほど効率は上がっても獲得単価は上がり、総量としての効果が下がっていくということも示しています。この問題を解決するためにブランディングや認知を含めたフルファネルのアプローチをとろうとするのは、ある意味でやり方が逆立ちしてしまっていると言えます。本来は、プレファレンスの水平的な拡大をするのに、追加されるべき認知獲得とプレファレンスを増やす確率の高いクリエイティブが求められているのであって、そのうえでターゲット選定やメディア選定をすべきなのです。