ブランドポジショニングはターゲティングの罠と同じ
ジャック・トラウト氏とアル・ライズ氏の共著である『ポジショニング戦略』の中で語られたり、フィリップ・コトラー氏が提唱した「セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング(STP)」の中にある、ポジショニングという考え方は、顧客の心の中で生まれるブランドに関する記憶と連想について語ったものです。すなわち、それは強いブランドこそ、顧客の心の中に他社とは明確に区別された唯一無二のポジション(意味)が築かれている、ということです。たとえばコカ・コーラなら「リフレッシュする飲み物」のように。
しかしこの考え方は、前回指摘したターゲティングと同様に、狭ければ狭いほど、市場全体に占めるシェアが小さくなることと同様です。すなわち、ポジショニングが強すぎるあまり、顧客にとってはその点においてしか思い出されることのないブランドになってしまうのであれば、限られた購買機会しかないということになります。つまりコカ・コーラの「リフレッシュする飲み物」は、競合のペプシからすれば、コモディティとなるため避けるべきポジションではなく、それを取らなければ成長は実現しえないという意味になります。
たとえば、あなたの会社の近所に、本場の味が自慢のインドカレー屋さんが1軒あるとします。あなたの中に、「本場の味が自慢のカレー屋」という記憶があるとしたら、あなたの心の中にとってのそのカレー屋のポジショニング(意味)は明確です。
ですが、必ずしもそのポジショニングは、あなたにとっての購買理由には直接結びつかないかもしれません。なぜなら、あなたが会社の近くで何かを食べる場合、カレーのみが選択肢ではないからです。コンビニでおにぎりを買うかもしれないし、ラーメン屋や定食屋で食べるかもしれない。もちろんカレーを食べたいときには候補に上がるでしょう。ですがカレー屋の競合は、必ずしも他のカレー屋だけではないのです。