ポジショニングが購買機会を狭めてはならない
ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)の元来のポジショニングであった「映画のテーマパーク」と森岡毅氏が推進した「総合エンターテインメントテーマパーク」を比較した場合、ポジショニングとして強いのはどちらでしょうか。おそらく先ほどの前提からすれば、前者と思うでしょう。しかし実際に成功したのは後者であり、それはプレファレンス(選好性)を水平に拡大するための戦略だったと言えます。
だからポジショニングとは、間違って運用してしまうと同カテゴリー内で狭く顧客を絞ってしまうので、本来は競合やビジネスソースを幅広く考えたうえで、カテゴリーを超えた購買機会を踏まえて考えるべきなのです。その意味ではジャック・トラウト氏がかつて言ったポジショニングを「記憶のはしご」として活用する方法が有効です。USJで言うなら、それはアニメやハロウィンやホラーだったわけです。
伝統的なマーケティングの教科書は「強いブランドは強いポジションを持ったブランド」と言っているが、われわれはこれを間違って導かれたものだと説明してきた。 強いブランドは決してひとつの価値提案に頼っているわけではなく、カテゴリーのニーズがもつ幅広い枠組みをまたがって顧客の心の中で適用可能な状態(mentally available)にあるものだ。(バイロン・シャープ氏著『How Brands Grow Part2』より筆者翻訳)
先ほどのカレー屋の例で言うなら、「本場の味のインドカレー屋」というポジショニングは、購買機会を増やすという意味では機能しません。もし、あなたの会社の近所で売上を伸ばすのであれば、「インド料理にインスパイアされたファーストフードレストラン」の方が、より可能性のあるポジショニングと言えます。このフレームであれば本場のインドカレーの味を追求するのではなく、時間のない忙しいサラリーマンやOLのために、ランチには「ナン付きのカレー弁当」や、小腹が空いたときに食べられるナンで挟んだ「タンドーリチキンバーガー」、朝食代わりに「ラッシードリンクとナンのセット」を提供することが考えられるからです。
実は日本マクドナルドも同様の戦略で、単なるファーストフードのハンバーガーレストランがポジショニングではなく、「朝、昼、夜いつでもあらゆる層が短い時間で満足できるフードサービス」であることがわかります。彼らがわざわざカフェメニューであるコーヒーやダブルでパテを増やせる夜マックを推進するのも、そのような購買機会を増やすためです。