マーケターが陥りやすい「ブランドポジショニングの罠」「態度変容の幻想」

 

購買機会を増やすための記憶連想=カテゴリーエントリーポイント

バイロン・シャープ氏の『How Brands Grow』(邦題:『ブランディングの科学』)の続編である、『How Brands Grow Part2(2013年刊、未邦訳)』では、アレンバーグ・バス研究所の同僚でもあり共著者のジェニー・ローマニアック氏が購買機会を増やすための「プレファレンスの水平拡大」を、カテゴリーエントリーポイント(Category Entry Point)として紹介しています。

カテゴリーエントリーポイント、略してCEPとは単純に言えばそのブランドが持つ購買機会に基づく記憶連想です。たとえばコカ・コーラのようなソフトドリンクカテゴリーでは、「あたたかい日に最適」「起き抜けに飲みたい」「少しだけヘルシーなもの」「子供が大好き」「のどが渇いたときに」のようなものを上げています。

先ほどの「リフレッシュする飲み物」というポジショニングでは「のどが渇いたときに」という機会しか想像できませんが、この記憶連想が数多く、そして強いほど、より多くの購買機会にブランドが顧客の心の中に上がってくることになります。

CEPは、伝統的には「比較検討・想起リスト(considerable evoked set)」と呼ばれるブランド指標、つまり非助成認知や「トップ・オブ・マインド(第一想起)」に含まれています。この顧客層の心の中のマインドシェア自体は、そのブランドの市場シェアが高いときの説明要因として語ることができます。つまり高い市場シェアのブランドは、マインドシェアが高い、というように。

しかしながらジェニー・ローマニアック氏の指摘では、そのような指標では、どのような購買機会があり、そこに成長のポテンシャルがあるかを教えてくれません。彼女によれば一般的に市場シェアが高いブランドほど、多くのCEPを持っており、低いブランドほどCEPが少ないのです。したがってブランドが成長するためにはより多くのCEPをマーケティングによって増やす必要があり、その成長機会はターゲット顧客の中でのCEPの出現率が高いものほど成長が期待できるということです。ローマニアック氏の定義では、CEPをもとにした指標は『How Brand Grows Part2』で以下のように説明されています。


1. メンタル・マーケットシェア:市場における売上占有率のように、顧客全体におけるすべてのCEPにおけるそのブランドの占めるシェア。

2. メンタル・ペネトレーション:市場における配荷率のように、そのブランドのCEPがひとつでもその市場の顧客に到達している割合。これはブランド認知との相関が高い。

3. ネットワークサイズ:ブランド認知者においてどのくらい数多くのCEPが連想されているか。この指標はマーケティング活動においてどれほどCEPのネットワークが確保されているかを確認するのに役立つ。

森岡氏が水平方向のプレファレンスの拡大と言っている点は、ローマニアック氏の言い方では、CEPのネットワークサイズを広げ、メンタルペネトレーションを顧客層に拡大する、ということになります。結果的に「メンタルマーケットシェア」というのは、その意味で認知とプレファレンスの掛け算とも言えます。

多くのマーケターは顧客に対してブランドがより多くのメッセージを流すことは混乱を招く、と考えているようですが、果たしてそうでしょうか。確かにひとつの広告やマーケティングに多くのメッセージを詰め込むことは消費者の混乱を招く恐れがあります。しかし、購買機会とはクレイトン M クリステンセン教授が提唱する「ジョブ理論」同様に、その顧客が面している状況やコンテクストによって異なるのであって、それぞれに合わせたマーケティングメッセージが顧客に伝わらない限り、購買機会を増やすことはできないのです。

従来のブランド指標は、売上の結果としての説明はできても、それをどうしたら成長に寄与させられるか、という点においてはローマニアック氏のCEPは、ジョブ理論と同様に新しい視点を提供していると言えます。

 

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鈴木健(ニューバランス ジャパン マーケティング部長)
鈴木健(ニューバランス ジャパン マーケティング部長)

1991年広告会社の営業としてスタートし、ナイキジャパンで7年のマーケティング経験を経て2009年にニューバランス ジャパンに入社し現在に至る。ブランドマネジメントおよびPRや広告をはじめデジタル、イベント、店頭を含むマーケティングコミュニケーション全般を担当。

鈴木健(ニューバランス ジャパン マーケティング部長)

1991年広告会社の営業としてスタートし、ナイキジャパンで7年のマーケティング経験を経て2009年にニューバランス ジャパンに入社し現在に至る。ブランドマネジメントおよびPRや広告をはじめデジタル、イベント、店頭を含むマーケティングコミュニケーション全般を担当。

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