【前回の記事】「日大選手の会見に学ぶ記者会見までの準備」はこちら
Q.記者会見では、身だしなみが批判の的になることがあります。メディアの前に出る際に、「見た目」の面で気をつけるべきことを教えてください。
A.
高価に見えるものや奇抜な服を身につけると、マイナスイメージの醸成につながります。
身だしなみなどの「見た目」は、記者会見の準備の中で軽視されがちですが、時には物議を醸すことがあります。
例えば2016年11月8 日に発生したJR博多駅(福岡市)前での大規模な道路陥没事故。福岡市長の高島宗一郎氏はこのとき、黒色×赤色の目を引くデザインの防災服を着て何度も記者会見を行いました。この時の会見の「身だしなみ」については、メディアトレーニングの受講者から多くの質問を受けます。「自社の関連工場で火災が発生し緊急会見を実施することになった場合、どんな服装がいいですか? 福岡市長みたいに防災服を着るべきですか? ちょっと目立ちすぎという気もします」といったものです。
これらに対して私はこう答えています。「現場では、作業服またはネクタイなしのスーツ、本社ではスーツにネクタイが基本。大切なことは奇抜な印象を与えないことです」。
高島氏は、大規模陥没だったにもかかわらず、発生から約1週間で道路の埋め戻しと舗装作業を完了させ、国内外のメディアからも高い称賛を浴びました。その実績が評価された一方で、市の防災服が人目を引くデザインだったため、功績よりも「見た目」が人々の心に焼き付けられてしまったのです。
身につけるものすべてに注意
ある都市銀行の謝罪会見では、頭取をはじめとして一列に並んだ登壇者全員が、黒のスーツに黒のネクタイ姿。告別式のようで、異様な雰囲気でした。
赤ネクタイにネイビースーツは、堅実な中に熱意とパワーを感じさせる服装として、私が師事した外国人トレーナーが推奨していました。トランプ大統領も好む定番の会見服のようですね。もっとも謝罪会見に「熱意」は向きません。この場合は黒のスーツに小柄が入った薄茶またはグレーのネクタイがお薦めです。
また、テレビを意識した服装として、私は「チェック柄や縞模様のスーツ・ワイシャツ・ネクタイなどは、避けるべきだ」と指導しています。テレビ画面では、「モアレ」と呼ばれるうなり現象が発生し、ギラギラして見える恐れがあるからです。
スーツやネクタイは基本ですが、この2つだけに気を遣えばいいというものではありません。身につけるものすべてに注意を払うべきです。靴は綺麗に磨いたものを選び、華美なメガネは避けます。腕時計、ネックレス、ブレスレット、指輪なども外しましょう。安物でも大写しにされると金満家の持ち物のように見えてしまいます。
謝罪会見の場合は、名札、襟章なども原則外しておいた方がいいでしょう。胸ポケットのハンカチなどのオシャレも厳禁です。ポケットは空にし、前ボタンは留めます。髪型は清潔感がポイントです。
女性の場合、犠牲者がでた事故でない限り、黒のスーツにこだわる必要はないと思います。自己主張が少ない服装を選びましょう。
常に「真っ直ぐ」を心がける
服装同様に、視聴者の印象に残りやすいのが「姿勢」です。取材を受ける姿勢がちょっと前屈みになっているだけで、ひどく落ち込んでいるような印象を与えます。反対に、腰を反らせていると高慢に見えます。背筋を伸ばして真っ直ぐ立つことを心がけましょう。座っている場合は、両手はテーブル上ではなく膝の上に置きます。
会見中は、基本的には顔や体を動かさないで話しましょう。何台ものビデオカメラが定点から撮影しており、ズームアップしているものもあります。少しの動きでもカメラマンを困らせてしまうことがあるのです。
原稿を読みながら話す冒頭スピーチでは、適宜顔を上げてカメラマンが撮影をする機会をつくりましょう。会見場中央付近の席に目をやるのがポイントです。質問の受け答えの場面では、質問者の方にしっかりと身体を向けて対応してください。
最後に、話すときの「表情」も大切です。謝罪会見の場合は、感情を表に出しすぎないように気をつけましょう。意地悪な質問にも怒りをあらわにするのではなく、「まじめに答えています」という表情で対応するのが一番です。なお、プロモーションを目的とした会見では話し手の生き生きした表情とほほえみが、最も重要です。
山口明雄(やまぐち・あきお)
アクセスイースト 代表取締役
東京外国語大学を卒業後、NHKに入局。日本マクドネル・ダグラスで広報・宣伝マネージャーを務めたのを皮切りに、ヒル・アンド・ノウルトン・ジャパンで日本支社長、オズマピーアールで取締役副社長を務める。現在はアクセスイーストで国内外の企業に広報サービスを提供している。2018年2月、『危機管理&メディア対応 新・ハンドブック』(宣伝会議刊)発売。