この作品で印象的なカメラワークを手がけたのが、『天然コケッコー』『桐島、部活やめるってよ』など、数々の話題作を撮っているカメラマンの近藤龍人さんだ。
初参加の是枝組でカンヌ最優秀賞を受賞
5月20日の早朝、ムービーカメラマンの近藤龍人さんは一通のメールを受け取った。
それはカンヌ国際映画祭で、是枝裕和監督の『万引き家族』がパルムドールを受賞したという報せだった。「寝起きだったので、最初はピンと来なくて…。その後、いろいろな方からメールをいただいて、本当に受賞したんだ、という実感が湧いてきました」。
大阪芸術大学映像学科在籍時に、フィルムの撮影と編集を学んだ近藤さん。熊切和嘉監督の映画に参加して以降、数々の邦画話題作を手がけている。是枝作品への参加は、今回が初となる。
「シナリオを読んでまず思ったのは、是枝映画の集大成のような作品であるということ。そのため、どういうテイストでこの作品を撮影すればよいのか、必死で考えました」。
それから半年後、本格的なクランクイン前の夏に、海辺で家族が遊ぶシーンが最初に撮影された。
「この時、自分の中に家族それぞれのキャラクター像ができあがり、監督がシナリオに描いた世界が一気に広がった感じがしました」。
近藤さんが本作の撮影で試みたのは、子どもの目線に近い位置から撮影すること。
そして、寓話性を映像に乗せることである。近藤さんのこうした試みに、是枝監督は自分の画コンテを捨て、すべてを任せたという。
「シナリオを読んだ時に、大人が子どもを見るのではなく、子どもが大人を見ている、その目線にカメラを持っていくことで、リリー・フランキーさんや安藤サクラさんのキャラクターがより見えてくると思いました。それから赤や緑など少し極端な色を照明の藤井勇さんにお願いしました。それによって、この物語の生々しさが軽減し、少し距離を置いて家族の生活を見ることができるのではないかと思ったんです」。
新進ムービーカメラマンとして引く手数多の近藤さんだが大学卒業後、30歳前までは撮影アシスタントをしながら、大阪で自主製作映画を撮る生活を続けていた。
「卒業後も、大学でこっそり機材を借りて作品を撮っては、中島貞夫先生に見ていただきました。学生の時は先生と何を話したらよいのかわからなかったのですが、自分で作品を撮るようになってから具体的に質問したり、対等に議論できるようになりました。先日も中島先生が入っている京都の撮影現場を訪問したところです」。
恩師との交流のみならず、当時の友人たちとも仕事をする機会が多い現在、「大学での出会いと映画製作の体験が、いまにつながっている」と振り返る。
現在も新作を撮影中、10月には松永大志監督の『ハナレイ・ベイ』の公開が控えている。日本映画界を担っていく映画人のひとりとして、ますますの活躍が期待される。
近藤龍人さん
編集協力/大阪芸術大学