それでは、どのようにデータ活用を進めていくべきなのか。すでにデータ活用に取り組んでいる企業は、どのようにして顧客創造・獲得から育成までにデータを駆使しているのか。そのヒントを提供すべく、2018年7月30日、大阪・堂島で「アクティベーションデザインセミナー ビッグデータ時代の新しいマーケティング潮流」と題したセミナーが開催された。
JALが目指す、データを活用したワントゥワンマーケティング
セミナーは、日本航空(JAL)Web販売部1to1マーケティンググループ アシスタントマネジャー・渋谷直正氏による講演「データを活用したJALにおけるWeb販売~統計モデルからDMP、AIまで~」で幕を明けた。
渋谷氏の日々の業務内容は、JALのWeb販売部門に関連するデータの分析を行うことによって、見込み顧客に対して適切なレコメンドやアプローチを行い、Web販売部における収入の最大化を目指することである。
冒頭で渋谷氏は、「お客さまに対する最適なレコメンデーションを実現するには、まずお客さまが何を望んでいるのかを知らなければならない。弊社のような航空会社の場合、お客さまが国内・海外のどちらへ旅行したいのか、どの都道府県やどの国への旅行を検討しているのかなど、お客さまのニーズを探ることが必要」と説明。そうした“もの言わぬお客さま”のニーズを探るために、分析が必要だと話した。
分析の主軸として、JALが8年前から行っているのが月2億PVほどあるWebアクセスログデータの解析だ。渋谷氏は「Webアクセスのログデータであれば、航空券を買った人のデータはもちろん、買わなかった人のデータも取得することができる。これがアクセスログデータ解析の最大のメリットである」と語る。JALのメイン商材である航空券は高額であるため、ほとんどの人は複数回Webサイトへ訪れて比較検討し、購買の意思決定をするそう。こうした特性があるからこそ、購買までのWeb回遊行動の特性を見出したり、比較検討の末に購買した人と購買しなかった人のデータを見比べたりすることが大事だという。
続けて、渋谷氏はJALが行ったデータ分析・活用事例を発表した。ひとつ目は、ロジスティック回帰分析という統計手法を用いて行ったデータ分析について。JALのWebサイトでは航空券の購入だけでなくホテルの予約も行うことができる。しかし、航空券とホテルまとめて予約する方はそれほど多くない。そこで、分析によってホテルを予約する確率が高いと考えられる顧客群を抽出、その顧客群に対してホテル予約のリコメンドを実施。その結果、そのレコメンドから従来にない規模のホテルの予約が入ったそうだ。
「リコメンドのコストはほとんどかからないのだから、わざわざ対象を絞らず全員に対して一律にレコメンドすべきという意見もあった。しかし、JALからお客さまに届けたい情報は他にもたくさんある。別の告知も行いたいからこそ、より航空券と一緒にホテルを購入される確率の高いお客さまに絞って案内した」と渋谷氏は分析の意図について説明。
外部情報やAIの活用も視野、多角的にお客さまを分析したい
他には、外部サイトからの情報を活用する施策も行っている。具体的には、JALのWebサイトにアクセス後、外部サイトでロンドンの情報を参照した人が再訪した際にロンドン旅行の情報を優先的に表示するといったものである。
渋谷氏は取り組みを振り返りながら、「お客さまの趣味・嗜好を知ることはマーケティング活動において非常に重要。それを知るためには、JALの中にあるデータだけでは情報量が十分でない場合も多いので、外部データの活用は意味があると思う」と話した。
他にも、データ分析の工数削減や新しい視点からのデータ分析を行うために、AI技術も活用。その結果「とある県在住の会員や、とあるクレジットカードブランドを利用している会員は、ハワイ旅行の購買確率が高い」といった、予測もしなかったデータが導き出される面白さがあったという。また、「様々な企業間でデータの交換や連携という流れが出てくるのではないか」と、渋谷氏は今後の展望を語った。
博報堂DYグループが提唱する「“生活者データ・ドリブン”マーケティング」
第2部は、博報堂DYメディアパートナーズデータビジネス開発局データマネジメントプラットフォーム部部長・片岡 遊氏が「“生活者データ・ドリブン”マーケティングの全体像および、マーケティング・ソリューション群のご紹介」と題して登壇した。
最初に片岡氏は、「5年ほどデータ・ドリブンマーケティングに携わる中で感じている3つの課題として、①施策の分断、②データの分断、③安全性の課題がある」と説明した。
「施策の分断」とは、主にオンラインとオフラインの施策の分断を指す。デジタルマーケティングでは日々大量のレスポンスデータが取得でき、PDCAサイクルを回しやすい一方で、マスマーケティングの成果データの取得はまだまだ難しい。この両者を統合して最適化していかなければならない。
続いて、課題として挙げられるのが「データの分断」だ。企業がマーケティング活動に取り組む上ではさまざまなデータが蓄積されていく。しかし、これらがうまく統合されていない場合が多い。特に、実店舗とECサイトの両方で商品を販売している企業は、それぞれの売上に責任を持つ部門が異なり、データがバラバラに管理されているということもよく起こる。また、今後より効果的なマーケティング施策を実行していくためには、これらのデータに加えて外部データも統合していく必要があるという。
そして、残るのが「安全性の課題」だ。片岡氏はこの課題について、「お客様にデータ利用についての規約同意をいただけたとしても、『プライバシーに懸念のあるお客様は今後自然と離れていってしまうのでは』という不安が消えない企業は多い。こうした個人情報への配慮もデータ統合を阻む壁になってしまっている。」と説明した。
こうした課題に対して、博報堂DYグループでは、2014年から「“生活者データ・ドリブン”マーケティング対応力の強化」を掲げて解決に向けた取り組みを行っている。その中で構築したのが「生活者DMP」だ。生活者DMPとは、生活者意識から購買やオンライン行動、TV視聴など多種多様なビッグデータを連携・収集するプラットフォームである。
この生活者DMPならびに“生活者データ・ドリブン”マーケティングが、先に挙げた3つの課題をどう解決するかについて、片岡氏は「『施策の分断』は、統合的で一貫したソリューションの提供によって、『データの分断』は市場や生活者の全体像を捉えられるデータプラットフォームによって、そして『安全性の課題』は個人に配慮した状態でデータを結合できる基盤テクノロジーの利用によって解決できる」と説明。
そこで生み出されたのが、生活者のデータを安全に保護しながら、データ活用の高度化・データ基盤の拡張を実現する独自のテクノロジーだ。具体的には、個人情報を匿名化する技術である「k-統計化」、データを繋ぎ合わせる「データフュージョン」、データを繋ぐための「HUBデータ」の3つのコア技術によって構成されている。
博報堂DYグループではこうしたデータ基盤と合わせて、導き出されたデータ分析結果を元に顧客創造から育成までの一貫した戦略を練り、実際の施策を行っていくためのマーケティング・ソリューション群「生活者DATA WORKS」も揃えている。「クライアントのデータ分析から活用までを幅広く支援できる体制を整えている。サービスメニューは今後も拡大したいので意見をいただければ。」と片岡氏は呼びかけ、締め括った。
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