ベンチャーバンク「MOMENTUM(モメンタム)」
ホットヨガスタジオ「LAVA」、暗闇バイクフィットネス「FEELCYCLE」などを全国に展開するベンチャーバンクグループ(東京・港)は7月、初の法人向け事業を開始した。健康経営を支援する本プロジェクトを統括する、松本亨子氏がその狙いを語る。
日本人の8割が運動不足を自覚
—「健康経営」の実現へ、現在の企業における課題を教えてください。
最も大きな課題は、「健康とは非常にプライベートな問題で、個々人の意識が変わらない限り“行動” や“習慣”は変わらない」ことです。日本人の約8割が運動不足を自覚しており*1、日本人のリスク要因別の関連死亡者数3位が運動不足という事実*2からもそれは明らかです。
誰しも幸せな人生を送りたいですし、健康はその根幹となるもの。WHO(世界保健機関)の定義によると、「健康=身体的・精神的・社会的にもすべてが良好な状態(well-being)」とされています。つまり、健康≒幸せということなんですね。不健康な生活では、人生も良い方向に変わっていかない─そういう思考の「気づき」を得るための「きっかけ」を施策の中で、どれだけ提供できるかが健康経営の成否を決めるポイントとなります。
例えば米国では今、「スエットワーキング(Sweatworking)」という新しい働き方がブームになっています。仕事仲間やクライアントと会員制のブティック型ジムで汗を流した後、朝食会(会議や商談)を行います。朝活ですね。これは、セロトニン分泌を促し、交感神経が優位になることで集中力・創造力・コミュニケーション能力が高まると科学的にも裏付けされています。睡眠の質向上にも効果があります。欧米の意識が高いビジネスパーソンが就業中に運動をする習慣を持っているのは、そういった裏付けがあるからです。働きながら楽しめる健康増進アクティビティの潮流は世界的に広がっていくのではないかと思います。
—「従業員の健康状態が生産性を左右する」ということですね。
「生産性」とは、個人的資源と社会的資源の組み合わせです。日本の企業は、全体最適(公平性)という概念の中で、この社会的資源に注力し、投資をし、個々の生産性向上に期待する風潮があります。しかし、心理学の研究では、個人的資源と社会的資源が互いに相関し合って、個々の生産性を高めていることが分かっています。つまり、どんなに素敵なオフィスで働き方を自由に選択できたとしても、個人的資源に問題を抱えていた場合、その人の生産性は向上しにくいと言えます。私は、この個人的資源へのアプローチこそが、意識を変え、行動変容を促す「きっかけ」になるのではないかと考えます。裏テーマは「気づきの誘発」です。そこで経営戦略として従業員の行動変容までサポートできるサービスが必要だと考え、法人向け事業「MOMENTUM」を7月に立ち上げました(図1)。
[図1] 法人向け健康経営支援サービス「MOMENTUM(モメンタム)」
現在、IT企業などを中心に導入を始めたところですが、当社グループが運営する施設の利用だけではなく、企業ごとにカスタマイズした社内研修をセットで提供しています。例えば「パフォーマンスを最大化するためのマインドフルネス講座」「ビジネスアスリートのためのヨガ」、そのほか睡眠やデスクワーク中の姿勢など、楽しく健康リテラシーを高めるような参加型プログラムを用意しました。
従業員一人ひとりが「心と身体の調子が整っていないと仕事の成果につながらない」という気づきがあるかないかで生産性は大きく変わります。だからこそ経営層とは、健康経営へのコミットメントをどうやって社内に浸透させ、個々人の気づきを誘発できるかを一緒に考えてゆくのですが、その際に欠かせないのは、社内インフルエンサーの存在です。経営者の近くにいらっしゃる広報担当の方々は社内コミュニケーションに長けていますし、人事担当の方とともに健康経営の実現を後押しする役割を担っていただきたいと考えています。健康維持・増進のための活動とするのではなく、「ワークエンゲージメント」を高めるための活動として、健康という手段を取り入れる手法と捉えていただきたいです。
活力・熱意・没頭の3要素
—「ワークエンゲージメント」とは、どのような定義でしょうか。
ワークエンゲージメントは「ワーカホリック」(仕事中毒)と対になる概念です。仕事の成果は一見すると同じなのですが「ワーカホリック」は義務感が伴うため、働きすぎると“燃え尽き症候群” のような状態になり、健康を害します。一方で、ワークエンゲージメントは「活力・熱意・没頭」という3つの要素が揃っているので、たとえ多少の不調があっても持続して前向きに働き続けることができる状態です。
ではワークエンゲージメントを高めるにはどうしたらいいのか?というと、やはり個々人が健康な状態を維持できているかで決まります。仕事に没頭するあまり、残業することもあるでしょう。しかし、一時の睡眠不足があっても、基礎体力や筋力があればある程度は乗り越えられますよね。このワークエンゲージメントを高めるきっかけとなるのが今回の新サービスです。企業と従業員が信頼関係で結ばれて、熱意をもって貢献し合う……という良好な関係づくりにつながることが理想です。
さらに「MOMENTUM」は単なる運動機会や健康情報の提供だけではなく、企業の健康パートナーとして存在したいと考えます。なぜそんなことが言えるのかというと、ベンチャーバンク自体がずっと健康経営を実践していること、そして美と健康領域で約20以上の多様なBtoC事業を展開しており、専門性を持った知見とノウハウを最大の強みとしているからです。
健康に興味・関心がない人が、身体を動かす機会を持つのは難しいこと。だからこそ会社が費用や時間をサポートして、月1回でも運動する習慣づくりへ一歩踏み出してほしい。心と身体がニュートラルな状態になり、生産性や集中力が高まるという感覚は味わった人にしか分かりません。「管理」や「測定」だけでは健康経営の本質に向き合うことは難しいです。企業課題の解決に導く従業員とのエンゲージメントを高めるために、健康経営に取り組む企業の本気度が今こそ問われていると思います。
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