テクノロジーの不完全性から人間性を見出す-アルスエレクトロニカ現地レポート①

プログラムがもつプリミティブな意思に宿る美学

・tangibleFlux φ plenumorphic

「tangibleFlux φ plenumorphic ∴ chaosmosis」は、鮮やかに躍動して動き回る個体発生の瞬間を表現するインスタレーション。テーブルの上に形成された小宇宙のような空間の中で、超常現象のように磁力の調和で3次元にボールが動き回る様子は、生命のダンスのようにも見える。

設計されていながらも、プログラミングとは異なる、磁石で動くボール自身の意思を感じる。数多くのプログラミング作品の中において、マグネットでボールが動くという、Primitive(原始的)な作品も評価されるのが、アルスエレクトロニカの鋭いキュレーションの魅力だ。“Primitive”というキーワードは今回の展示作品の解説に多く書かれていた。テクノロジーがいくら発達しても、元来人間がもっている本能的な、心の琴線に触れる感覚というのは今のところ変わらないという見方が強いようだ。

・SEER: Simulative Emotional Expression Robot

「SEER」は表情認識技術の研究から開発された小型ヒューマノイドロボット。首の動きに左右されず、ある一点を見つめ続けることが可能だ。アイトラッキングの技術により、まるで関心をもっているかのように、首を動かしながらも、観賞者のことを見つめることができる。また、弾力性のあるワイヤーを眉毛につかうことで、感情的な表情を浮かべるロボットだ。

「SEER」は対面する観賞者の表情を真似し、顔の向きまでトラッキングして動かすが、目だけはずっと観賞者を見つめようとするその動きに、人間らしさと愛らしさを感じられずにはいられない。言語処理なくしても、ロボットと人間は通じ合えるとなれば、現状のロボット開発に生かせるのではないか。結果的に観賞者を笑顔にし、そして「SEER」自身もそれを真似して笑顔になる、心温まる作品である。

不完全を受け入れる

不完全、想定外だからこそ愛着が湧く、楽しくなる。ミスがない人間なんてつまらない。期待をいい意味で裏切るときも、文字通り裏切るときも、共に働く中で、共に生活する中で、人間と人間も、プログラムと人間もカバーし合っている。

つくる側も、見る側も、不完全性を否定的に捉えないこと。ミスがあるからこそ愛着が生まれる、ロジックにズレがあったり、プログラミングミスがあるからこそ、自分の知識・理解の範囲が拡がり、時としてアイディアのジャンプも生まれる。そのために、あえて不完全性の余白を残すフレームワークやワークスタイル、コミュニケーションツールを備えることが、プログラミング時代のクリエイションの秘訣なのではないかと感じた。

2018 Ars Electronica Festival – Trailer

 

小口 弘太郎
TBWA\HAKUHODO
DIGITAL ARTS NETWORK所属
インタラクティブプラナー

慶應義塾大学 経済学部卒業。ニューヨーク、サンフランシスコ、東京のスタートアップでのインターンを経て、2014年、ブランディングエージェンシーに入社。ブランディング、デジタルコミュニケーション、サービス開発などに係る。2017年にTBWA\HAKUHODOに入社。インタラクティブ、ストラテジー、メディアプラニングを横断して業務に携わる他、TBWA\WORLDWIDEのカルチャーエンジンであるBACKSLASHや、TBWAのコンサルティングサービスであるDISRUPTION® CONSULTINGにも従事する。

 

袴田 喬
TBWA\HAKUHODO
DIGITAL ARTS NETWORK所属
デジタルデザイナー/アートディレクター

カリフォルニア美術大学 グラフィックデザイン学科卒。サンフランシスコのデザインエージェンシーでアートディレクターとしてアプリ・デジタル中心の案件に関わる。帰国後、外資系広告代理店にてアートディレクターとして従事。UI/UXからプロダクトデザインまで企画立案や制作を指揮。2017年にTBWA\HAKUHODOに入社。デジタルでの知見を生かし、アートディレクターとしてデザインだけではなく、SNS視点のクリエイティブやプランニングにも携わる。過去にはWebby Awards、Good Design賞など受賞。

 

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