物語には相手が核として持っている「志」を込める
前田:プロジェクトをスタートアップする時に、経営者やプロジェクトリーダーがよく朝礼で社員にマントラ(呪文)を唱えさせますよね。「このプロジェクトは社会的にこんなに意義あることだ…」とか。それがどれくらい社員の心にしみ込んでいるのか。もしかしたら、口先で唱えているだけかもしれないわけで。
ところが、この呪文を「物語」と言い換えたとたん、アプローチの仕方も変わるし、社員の受け取り方もよくなりそうな感じがします。もしかしたらプロジェクトリーダーの一番の仕事は、チームメンバーを一つの方向に向かわせるための物語を指し示すことなのかもしれません。
プロジェクトを行う際のチームビルディングでは、そのプロジェクトをいかに自分事させるかということが非常に重要になります。それぞれ自分の持ち場だけに集中しておけば全部が回るというのは理想ですが、おうおうにしてリソースは少ないので誰かが1.1をやらなければいけない。そういう時に、自分事化できていれば1.1につながりやすくなる。その部分で物語が有効かもしれないと思うのですが、どうすればそれを自分事化させられるのでしょうか。
河原:相手を尊重し、読み解くことが大事かもしれません。NHKさんと仕事をしたのは「18祭」が初めてでしたが、普段一視聴者として感じていたNHKの志みたいなものから、きっとこちらの意図を汲んでくれるだろうという読みのもとに、自分達の思いをストレートにぶつけました。どの組織にも、その組織ならではの志や譲れないものがあると思うんです。物語はちゃんとそこを押さえて作ることが大事かなと思います。
前田:クラアイントがそれを忘れてしまって、目先のことに囚われている時に、物語の核にすべきことを示す。すごくいい関係ですね。
河原:でもね、「それはもういいから」と言われることもありますよ。そんなときは、「でもですね…」と続けます。僕らの仕事の誠実さは、そういうところにあるのではないかと思うんです。ただ手放しに「クライアントの仰せの通りに」ばかりでは、僕らの存在価値はないです。
前田:仰せの通りにしていた方が楽ですが「それじゃあ未来はないよ」ということですね。
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