外野として客観的に相手の良いところを見出す
前田:独りよがりな物語と共感を呼ぶ物語の差はどこにあるんでしょうか。
河原:なんでしょうかね…。オーバープロミスしないことですかね。大きな目的に向かって進み出そうとしている時は、少し頑張れば自分たちもできそうだと思える目標をクリアしていくことが大事です。千里の道も一歩からです。
前田:僕が著書で言っていることと同じですね。大きな目標と現状の間に中間の目標を作ろう。そうすればそれが緩衝材になる。
河原:そのとおりです。僕らの場合は、クライアントの製品ができあがった時から加わることが多いので、その商品から読み取ります。例えば、ピジョンさんは赤ちゃんとママに対して尋常でないくらい真摯に考える赤ちゃん用品メーカーです。そういう企業が開発したBingle(ビングル)というベビーカーの広告は、たとえクライアントが求めても、赤ちゃんやママへの思いが抜け落ちた″おしゃれな感じの広告″ではいけない。そういう時は、我々が「日本のママが抱えるこういう問題を解決する大事な第一歩となる商品である」という方向性を示す。そうすれば、それがこの後どこへ行くべきか見えてきます。
前田:クライアントとプロジェクトチームが共に切磋琢磨したり、相互作用したりして理想の姿や大きな物語に到達する。自分たちはそういう働きを期待されていると認識していると、ちょっと違う心持で仕事ができそうです。
河原:常に僕らは「アウトサイド・プロフェッショナル=外野」ですが、外野には外野の良さがある。えてして自分の魅力は自分ではわかりませんよね。だから僕らが外野からクライアントのいいところを見出す。それが、僕らが関わることの意義だと思います。
前田:僕はプロダクトの開発から参加したプロジェクトよりも、できあがってから参加した方がうまくいくんです。最初から参加していると、プロダクトへの愛が深すぎて客観視できないからです。そう考えると、プロジェクトマネージャーにも外野視点はすごく大事ですね。
プロジェクトマネージャーが物語の作り手になるには、PMBOK(ピンボック:「プロジェクトマネジメント知識体系ガイド」)のほかに、リベラル・アーツ的なことも学んだ方がいいかもしれません。
河原:プロジェクトを進めていく原動力になるようなエネルギーを爆発させるには、物語の方が向いているでしょうね。物語は人間の右脳左脳に関わらず、じわっと入り込んでいきますから。
前田:それですよ!コミュニケーションもチームビルディングもリーダーシップも西洋の考え方ですからロジカルなんです。でもロジカルではエネルギーを爆発させる原動力にはなりにくい。
河原:そう。車でいえば、エンジンの動力を車輪まで伝えるシャフトがピンボックで、車輪が回る仕組みの話はたくさんされている。けれど、肝心要のエンジンの話が抜け落ちている。エンジンを動かすにはガソリン(物語)が必要。その原料は人の頭や心の中にあるよくわからないもので、それをガソリンに精製しないと車は走っていかないわけです。
前田:今日は何というか、新しい可能性を感じたので、僕も研究してみます。
書籍案内
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『予定通り進まないプロジェクトの進め方』 対談バックナンバー
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