『ざんねんないきもの事典』編集者が明かす “ざんねん”へのこだわり

予想外の売れ行きに部署横断のチームを結成

—プロモーションについてはどんな戦略を立てていらっしゃいましたか。

正直、この本が「爆発的に売れる」という考えはまったくありませんでした。「サブカル臭がする図鑑の派生本」という自覚もあったので、王道には敵わないだろうと思い、プロモーションもそこまで力が入っていなかったんです。「本当に売れるの?」「本当に面白いの?」といった声もあったくらいです。そんなわけで、2016年5月に発売になった時は平均的な配本数でしたし、店頭でも児童書の棚に新刊として置かれていただけでした。

ヒットのきっかけは、本書を読んだ書店員さんが面白いと感じてくれ、売り場を拡大してくれたことです。その輪は少しずつ広がり、児童書に強い書店さんはもちろん、しだいに全国の様々な書店に波及していきました。

そして、それに幅広い層の方が食いついてくれたことが、大きな売上につながりました。子どもたちが学校で話題にしてくれたり、親子でクイズを出し合って遊んでくれたり、孫のためにと買ったおじいちゃんおばあちゃんたちが夢中になって読んでくれたり。世代を超えて楽しんでもらえるようになりました。

2018年5月5日に発表された「こどもの本総選挙」(ポプラ社主催)でも、本書が1位に、続編が4位に入賞しました。子どもたちが自ら「これを読みたい」と選んでくれて、感無量でした。

—2017年6月に第二弾、2018年5月には第三弾を発売しました。続編からは広告も積極的に打っていますね。

当初は続編なんてまったく考えていませんでしたが、第一弾が20万部に達したときに次も出そうとなって。同時に編集、営業、広報の複数人が連携してプロモーションチームを組み、本格的に戦略を立てていきました。実は、当社でここまでプロモーションに力を入れるのは初めてのことでした。

広告については、続編、続々編ともに発売のタイミングに合わせて主要5都市(東京・大阪・名古屋・福岡・札幌)で電車の中づり広告を出しました。本書の広告は幅広い層に訴求したいと思っていましたので、従来から出稿してきた新聞ではなく、車内広告を選びました。広告の反響は予想以上に大きかったです。SNSで写真をアップしていただいたり、コピーを読んで「気になる!」と反応してくださったり。特に今まで購買層にいなかった10代~20代の若者が見てくれました。

2017年6月に続編を発売したとき、ちょうど第一弾が35万部を突破したタイミングでした。「35万部」という数字は、児童書のなかでは十分すぎる数字なので「続編の売れ行きはよくて七掛けくらいかな」と予想していました。チーム内でも「3カ月で15万部売れたら目標達成」と話していたんです。でも、蓋を開けてみるとたった1カ月で15万部を達成したんですね。その後、9月には第一弾・第二弾累計で100万部を超えました。

社内にこもっていたせいか、「35万部」イコール「日本中がこの本を知っている」と考えていましたが、広告への反応を見てまだまだ知らない人はいるんだなとハッとさせられたんです。今までは他の本に対しても校了したら「終わり!」というやりきった感を抱いてしまっていましたが、発売後こそ人々に知ってもらう努力をしなきゃいけないと、身に染みて分かりました。

—ざんねんないきものシリーズは2018年7月現在、累計発行部数268万3000部を突破しています。その裏には、広告だけでなくメディア露出の効果もあったと思います。PRについてもチームで戦略を立てたのでしょうか。

これまであまり力を入れてこなかったので、戦略という戦略はなかったのですが、広報担当が中心となって取っかかりをつくってくれ、そこから取材が増えていきました。一番初めは、テレビの「売れている本ランキング」などに本書が取り上げられていたのを見て、それを足がかりに各局に売り込みに行ったんです。その結果、本書に書かれている生き物たちの“ざんねん”なエピソードを、動物園などで検証していただけるような番組がどんどん増えていきました。

例えば2017年8月放送の『めざましテレビ』(フジテレビ)では、「カピバラはお尻をグリグリされると寝てしまう」というエピソードを検証していただきました。女性アナウンサーが動物園でカピバラのお尻をグリグリすると、本当に数分後にはすやすやと寝てしまって、とてもかわいかったです……。

その後、日本テレビの『世界一受けたい授業』や『天才! 志村どうぶつ園』など、人気番組でも次々に取り上げていただき、放送後にSNSで拡散されることで売上もどんどん跳ね上がっていきました。

2017年11月~2018年5月まで(会期延長)、サンシャイン水族館とのタイアップ企画で「ざんねんないきもの展」を開催。いきものたちの“ざんねんな行動”を実物や動画で楽しめるとあって、多くの子どもたちが訪れた。

次ページ 「決めつけをせずタブーに切り込む」へ続く

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