『カメラを止めるな!』はなぜ爆発的にヒットしたか、考えられることを考えてみる

ヒットの理由3:無名な人たちだから応援したい

この映画を語る要素に「無名の役者ばっか!」とか「無名の監督なの!」とか、無名な人たちの面白い映画だから語りたい、というのもあります。「制作費300万円」も重要な要素でした。あんなに面白いのに、無名なんだよ!お金もかけてないんだよ!これも言いふらしたくなります。

「判官びいき」というのがありますよね。この夏の高校野球でも秋田の金足農業高校という無名の学校が決勝に!と盛り上がったのは、どう見ても判官びいきでした。それだけで今年の甲子園は例年より視聴率もよかったのではないでしょうか。
ただ、「無名」。それだけで応援されるわけでもないです。無名の人たちがものすごく頑張って、ものすごく面白いものを作った。だから応援してもらえる。『カメ止め』の場合、この一生懸命さが大きなチカラになっていました。

映画そのものが、みんなで一生懸命になって無理な企画を映像化する話でした。一生懸命映像化する物語を、実際にも一生懸命映像化していた。エンディングクレジットでそれを感じさせられる。一種のメタフィクションだったわけです。さっきまで大笑いしてた、あのシーンはこんなに大変だったんだ。だからグッと来て、応援したくなる。

あのエンディングが、応援を決定づけたのだと思います。

ヒットの理由4:役者たちが自分でプロモーション

これは上田監督のインタビューで知ったのですが、役者さんたち全員に「ツイートしてくれ」と指示したそうです。ツイッターをやってなかった人もいたのを、だったらこの機にはじめなさい、とまで。

これ、大事だなーと思いました。当事者がツイートするのって、基本中の基本ですよね。しかも全員。SNSは結局、熱量みたいなものが伝わるし、まとまった数がいれば拡散の「核」になります。劇場公開前には、「あと何日」というカウントダウンを、毎回趣向を凝らしてみんなでツイートしたそうです。

さらに、役者さんにスタッフも加わって、舞台挨拶をやっている。これ、普通は初日とか、ヒット御礼とか、何らかの節目にやるものですが、最初の館で毎日やってたそうです。入れ替わり立ち替わり。相談しながら、「明日誰行くっけ?」みたいなやりとりしてとにかく毎日誰かが挨拶している。

これって「会いに行ける映画俳優」ですよね。AKB48に限らず、直接のコミュニケーションは効果が高い。その人たちもインフルエンサーになってくれますから。とにかく役者さんたちが自分でプロモーションしたことは大きいですね。

次ページ 「ヒットの理由5:デジタル化したラジオもひと役」へ続く

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境 治(コピーライター/メディアコンサルタント)
境 治(コピーライター/メディアコンサルタント)

1962年福岡市生まれ。1987年東京大学卒業後、広告会社I&S(現I&SBBDO)に入社しコピーライターに。その後、フリーランスとして活動したあとロボット、ビデオプロモーションに勤務。2013年から再びフリーランスに。有料WEBマガジン「テレビとネットの横断業界誌 Media Border」を発刊し、テレビとネットの最新情報を配信している。著書『拡張するテレビ ― 広告と動画とコンテンツビジネスの未来―』 株式会社エム・データ顧問研究員。

境 治(コピーライター/メディアコンサルタント)

1962年福岡市生まれ。1987年東京大学卒業後、広告会社I&S(現I&SBBDO)に入社しコピーライターに。その後、フリーランスとして活動したあとロボット、ビデオプロモーションに勤務。2013年から再びフリーランスに。有料WEBマガジン「テレビとネットの横断業界誌 Media Border」を発刊し、テレビとネットの最新情報を配信している。著書『拡張するテレビ ― 広告と動画とコンテンツビジネスの未来―』 株式会社エム・データ顧問研究員。

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