「石巻の漁師からモーニングコール」のPRアイデアが生まれるまで

1300人以上が「漁師に朝、起こしてもらいたい」

嶋:モーニングコールは申し込み制だったよね。応募はどのくらい来たの?

藤田:1300人以上からの申し込みがきて、漁師のみなさんは、まずその反響の大きさに感動してくれました。自分たちと話してみたい人がそんなにいるのか、と驚いたみたいで。それと、申し込み時に応募理由も一緒に書いてもらっていたんですが、素敵な理由がいくつもありました。

小学生の息子さんを持つおかあさんからの応募は「息子がいつか漁師になりたいと言っているので、本物の漁師の方とお話しできる機会を持たせてあげたい」というものでしたし、東日本大震災の影響で石巻を離れざるを得なかったおばあさんは「ひさびさに、自分のふるさとの方言が聞きたいから」という理由でした。

自分たちの行いで、本当に未来の漁師が生まれるかもしれない、誰かの人生が変わるかもしれない、ということに、漁師の皆さんも僕たちも鳥肌が立ちました。

嶋:でも漁師の人たちも、いきなり知らないひとに電話をするわけじゃない。大丈夫だったのかな? 意外にうまくいったわけ?

藤田:みなさん、最初はめちゃくちゃ緊張するって言っていて。おはように始まり、応募理由にまつわることから会話の糸口を見つける人が多かったようです。今日はデートって書いてあったけど、何時からなの? とか(笑)。

嶋:漁の話や、自分たちのことも話すのかな?

藤田:会話を進めるうちに、自然と漁の話になってましたね。「今、船の上で、牡蠣の養殖場まで移動してる途中なんだ」と、こちらから投げかけることもあれば、モーニングコールを受けた方が「後ろで聞こえるのは、波の音ですか?」って聞いてくれることもあって。プロジェクトは2017年の5月8日から31日までの約1カ月でしたが、120~130人くらいの方とお電話できました。応募の1割くらいです。

メディアからの取材も殺到。実際に海の上まで取材に訪れ、漁師さんの仕事からモーニングコールをする様子を密着して伝える番組も。

嶋:目標としていた、石巻で漁師として働きたい人は増えたのかな?

藤田:結果として2016年度に4人だった新規漁業就業者は、2017年度、11 人にまで増加しました。おそらく水産学校などで漁業に関わりたいと思っていた人が、せっかくなら勢いがあって面白いことをやっている石巻で働こうと思っていただいたようです。「最初にモーニングコールかけてくれって言われたときは、『なんで?』と思ったけど、やってよかった」って、めちゃくちゃ喜ばれました。

嶋:それはすごいね! ちょっぴり疑いつつも、現状打破のためにこれまでやってこなかったことにチャレンジして、結果が出て。漁師のみなさんの意識も変わっていったんじゃないのかな?

藤田:そうですね。みなさんの意識に、さらに火がついた感じがします。それで、今年も継続企画として「海のヒットマン」というプロジェクトを実施中です。今までとは違う形で、漁師さんと話せる、仕事を頼める。そういう「接点」づくりを、僕も漁師の皆さんも継続していきたいと思っています。

嶋:それまで仕事として注目されていなかった漁業にスポットライトを当て、どっちかというと“怖い”イメージがあった漁師に対する既存のパーセプションを“プロフェッショナル”へとチェンジしただけでなく、「漁師として石巻で働きたい」と行動を起こす人まで現れたというのは、本当にすばらしい企画。まさにPRアワードにふさわしい、PRの教科書的な仕事だね。

次ページ 「PR視点とは、自分があらゆる「人格」を持つこと」へ続く

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