PR視点とは、自分があらゆる「人格」を持つこと
嶋:藤田さんみたいなクリエイターがPRアワードに参入してくることは、本当に刺激的で、審査する側としても、PR業界としても、もう本当にウェルカムなのよ。PRパーソンって、クリエイティブは自分たちの担当領域じゃないって思っているところがあるから、それを変えたいんだよね。もっともっと、ジャンプしてほしい。だから、PRパーソンはFISHERMAN CALLみたいなエントリーから、アイデアをクリエイティブジャンプさせるためのエッセンスをどんどん吸収してほしいね。
藤田:僕は、逆に、広告業界の人やクリエイターは、絶対にPRアワードをウォッチすべきだと思います。2016年にグランプリを受賞したコンカーの「領収書電子化などの規制緩緩和PRプログラム」をはじめ、ウナギの絶滅を防ぐ近畿大学の「近大発ナマズ」や森永製菓の「フレフレ、部活。母校にinゼリー 2018」などの受賞作品を目にしたとき、PRにはこんなに技の引き出しがあるんだって、驚きました。海外広告賞を見るのももちろん大事ですが、国内でこんなにも多種多様な技の応酬戦が行われてるんだったら、もっと注目したほうがいい。目の前に宝の山があるのに、事例として学ばないのはもったいないですね。
嶋:PRパーソンは、自分たちのPRが超下手なの! PRアワードは、広告業界の人にもぜひ注目してほしい。授賞式のプレゼンテーションは、きっとPR業界の人以上に、広告業界の人には刺激があって勉強になると思う。
藤田:僕は、日々クリエイターとして仕事をする中で、PR視点がどんどん必要になっているという感覚があります。テレビCMだけ流していればいいという仕事はほぼないし、どうやって世の中の人を動かすのか、意識を変えるのかというときに、クリエイターも技としてPR視点を持っているべきだと思います。
嶋:昨年PRアワードを受賞してから、何か変化したことはありますか?
藤田:受賞後は、PR視点を持ったコピーライターとして接していただく機会が増えたように思います。仕事の幅が広がりましたね。僕はPR視点って、自分の中にありとあらゆる“人格”を持つことだと思うんです。電車内に貼られるキャッチコピーを書いたとします。かつては、通勤客や子ども連れの方が車内で見たらどう思うか、という風に考えていたのですが、PR視点が入ると、メディアの人はそれを見てどう報道するか。それを見出しに使うか。さらに、その報道を見た人はどう思うか。そういう風に考えるようになりました。コピーやクリエイティブをチェックするときの“ものさし”が、一気に増えた感覚です。
嶋:もはやPRは、誰もが持つべきコミュニケーションプランニングの基本スキルだよね。所属業界や会社、部署とかそういうことは全部取っ払って越境し、PRのスキルを身につけてほしいんだよね。越境、これ大事。というわけで、PRアワードは広告業界の皆さん、イベント業界の皆さん、デジタル業界の皆さんなど、あらゆる人の参加をお待ちしています。藤田さん、今年も応募してくださいね、2018年のPRアワードは10月24日が締め切りですよ。
藤田:もちろんです! ぜひ、刺激的なエントリーと切磋琢磨したいと思います。
(企画・構成:伊澤佑美)
藤田卓也(ふじた たくや)
電通 第3CRプランニング局
東京大学大学院 工学系研究科を修了後、2012年電通入社。コピーライターとして、コピーやCM制作だけでなく、デジタル領域の企画なども手がける。
嶋浩一郎(しま こういちろう)
博報堂ケトル 代表取締役社長 クリエイティブディレクター/編集者
93年博報堂入社。コーポレート・コミュニケーション局配属。企業の情報戦略、黎明期の企業ウェブサイトの編集に関わる。01年朝日新聞社に出向。スターバックスコーヒーなどで販売された若者向け新聞「SEVEN」の編集ディレクター。02年~04年博報堂刊行「広告」編集長。04年本屋大賞の立ち上げに関わる。現NPO本屋大賞実行委員会理事。06年既存の手法にとらわれないコミュニケーションによる企業の課題解決を標榜し、クリエイティブエージェンシー「博報堂ケトル」を設立、代表に。09年から地域ニュース配信サイト「赤坂経済新聞」編集長。11年からカルチャー誌「ケトル」編集長。12年下北沢に書店B&Bをヌマブックス内沼晋太郎氏と開業。11年、13年、15年のカンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバルの審査員。2016年度からPRアワードグランプリ審査委員長を務めている。