屋外広告がPRのグランプリ? と、不思議に思った人もいるかもしれない。一体、このプロジェクトはどのような経緯で生まれ、なぜPRアワードで評価されたのだろう。
2018年の応募期限が迫る中、エントリーのヒントを探すべく、同プロジェクトを担当したヤフーの和気洋子氏を訪ねた。2015年から日本PR協会のアドバイザーを務め、今年のPRアワード審査員を務める井口理氏(電通パブリックリレーションズ 執行役員)が話を聞いた。
最初から、ソニービルに決めていた。
井口理氏(以下、井口):「ちょうどこの高さ。」を目にしたときの感覚が、いまだに忘れられません。災害の恐ろしさと、それから自分たちを守るために何をすべきなのか、とても考えさせられました。
和気洋子氏(以下、和気):ありがとうございます。ヤフーとして初の企業広告でした。もちろん、サービスの認知向上のために広告を出すことはありましたが、企業の意思を伝えたのは初めて。加えて、とてもセンシティブなテーマだったので、実施に至るまで、何度もディスカッションを重ねました。
井口:ヤフーとしての覚悟や意思が強く感じられますよね。文面から伝わるまっすぐで真摯な姿勢が、社会的な共感の獲得につながったのではないかと思いました。クリエイティブを担当した博報堂ケトルのクリエイティブディレクター・橋田和明さんは、「広告らしさをそぎ落とし、ヤフーからの手紙だと考えて制作した」と、お話されていましたね。
和気:ヤフーは、「Yahoo! JAPAN」のトップページや「Yahoo! JAPAN」アプリなどで、緊急地震速報や災害・防災に関する情報をお伝えしています。たくさんの方に使っていただいているサービスの提供者として、人の生死に関わる情報を発信することは、社会的使命だと思うんです。そういった防災に対する私たちの想いをできるだけまっすぐ、より多くの人にお伝えするにはどうしたらいいかを考え抜き、掲示場所も文面も徹底的にこだわりました。
井口:銀座ソニービルを選んだのは、多くの人の目に留まりやすい立地だからですか? インターネットを基盤とするヤフーのような企業が、屋外広告という手法を採ったのは興味深かったです。
和気:インターネットを通じて画面の中で表現するのと、リアルの場で表現するのでは、伝わるものが異なると思っているんです。あるいは同じ内容であったとしても、触れる場所によって印象は変わります。ですから、目的に合わせてどのような方法で届けるのがベストなのか、という設計をいつも心がけています。
今回は、16.7メートルという高さをリアルに感じていただきたかったので、最初から屋外広告での具現化にこだわりました。銀座ソニービルは、一緒に目に入るものが少なくて抜けが良い建物なんです。掲示する壁面の左側が空なので「高さ」を感じていただきやすく、メッセージが伝わりやすいのではないかと思いました。やるなら、ここしかなかったですね。掲示したいと思っていた期間、ちょうどソニービルのスペースが空いていて、めぐり合わせだと思いました。
井口:今は情報があふれすぎていて、スルーするのが当たり前になってしまっていますが、あえて多くの人が行きかう場所で、振り向かせ、考えさせ、語らせる機会を創り出したのは、本当にすばらしいですね。文面を完成させるまでには、どんな試行錯誤があったのですか? 社内では反対される方もいたのでは?
和気:いくら防災が大切だからといって、企業のスタンスを伝えるために、不快に思う方が出てしまうのは違うと思っています。特に、被災された地元の方々がどのように感じるかは、とても大切です。そこで、石巻にあるオフィスと連携して、地元の方がどう思うかのリサーチを行いました。そうしたら、「これはやるべきだ」という声をたくさんいただいたんです。地元の方々のリアルな声が後押しになり、社内も説得して実施にこぎつけました。