異なるKPIを掲げる人には、相手の言語に転換してメリットを説明する
私は現在、いわゆる宣伝・広告的なマーケティングだけでなく「ネスカフェ」ブランドに関わるビジネス全般を見る立場にあります。製品をつくり、お客さまの手元にお届けするまでのすべてのプロセスに関与するので、社内だけでもたくさんの部門との関わりがあります。私たちの部門が考える方針を、関係者全員がすぐに理解してくれればよいですが、それは現実的に難しいかもしれません。
私自身がネスレ日本に入社後、営業をしていたので経験がありますが「どれだけ本社の事業責任者が方針を語っても、現場には正確には届いていない」ケースが多いものです。
マネジメントクラスであれば、会社が掲げる目標は、他部門も協力して成し遂げなければいけないという理解があるので、前提の説明は不要です。ですが、レイヤーが現場に近づけば近づくほど、個別最適のより狭いKPIを持ってしまうので、議論がかみ合わないことも多くあります。
営業担当は「売上のために製品の在庫を切らしたくない」、サプライチェーンでは「キャッシュフローを改善するために、在庫を少しでも減らしたい」など、同じ社内にあっても異なるKPIを持って動いています。そして、例えば工場の稼働率を追いかけて日々仕事をしている人が、自分たちの言語を変えることは難しいかもしれません。
「顧客」の問題を見つけ、解決に貢献できるアイデアを考える
その企画を実現するための「顧客」は誰なのかを定義すること、そしてその「顧客」の問題を見つけ、解決のアイデアを考えること。さらに、自分たちが掲げたプロジェクトが実現すれば、彼らのどんな問題を解決し、メリットを提供できるのか、彼らの言語に転換して説明することが大事です。
これは社外の関係者に対しても同様です。ポイントは「顧客」の問題を見つけ出すことにありますが、それは自らが立てた仮説をもとに現場に足を運んで、直接話を聞かないと見えてきません。とはいえ、いざ顧客を訪問して「何か、困っていることはありませんか?」と質問するだけでは、本質的な答えは全く見えてきません。事前に顧客の事業や理念・ビジョンなどをきちんと調べ、それをさらに顧客の自らの声として聞きだした上で、踏み込んだ話をしていきます。
個々の「顧客」と直接話し、彼らが抱える問題を見つけ、私たちの持つアセットで解決できる方法を考える。ひとつの問題を解決すれば、また新たな問題が見えてくる。その解決のための積み重ねのストーリーを精緻にしていくことが、最終的に企画を具現化させるための重要なプロセスとなります。
次回の連載では、実例をもとに「顧客の問題解決」につながるアイデア発想について説明していきます。