欧米、そしてアジアの市場で求められるフォトグラファーになる
1966年に公開された映画『欲望(Blow up)』は、ロンドンで活躍するファッションフォトグラファーが主人公。ミケランジェロ・アントニオーニ監督の問題作として知られている。「高校生の時にこの映画を見て、写真を撮ることではなく、主人公のライフスタイルに憧れて、フォトグラファーを目指したんです」と話すのは、広告写真家 本田晋一さん。
大阪芸術大学入学後、すぐに写真スタジオで働き始めたが、「Blow up的な生活」に憧れてシンガポールへ。そこで本格的に写真家としてのキャリアをスタートし、ロンドン、ニューヨークを経て、現在は東京と上海を拠点に、国内外のコスメティック、自動車、家電など、さまざまなブランドの広告写真を撮り続けている。
本格的な撮影経験はないまま海外で仕事を始めた本田さん。どうやって写真家としての道を切り拓いてきたのだろうか。「生来リサーチや分析が好きなこともあり、その時々で自分が何を欲しているかではなく、周りが何を欲しているのかを探りました。同時に社会構造や市場も調べて、自分がいま何をやるべきなのかを見極め、進む道を選んできました」。
フォトグラファーを目指す人が多く集まる米国ではなく、シンガポールに行ったのも、高度成長期で市場に隙間があり、経験が浅い自分でもフォトグラファーとして仕事をする余地があるのではないかと考えたことから。それ以降も国が変わる度に、その国の市場で求められていることに自分を合わせてきた。
もう一つ、本田さんが他の人よりも早く取り組んだのが、レタッチ、合成などの画像処理技術を身につけること。自分で撮影し、その場で自らレタッチ、合成できたことが自動車の撮影などで奏功。通常はビューティあるいは自動車のどちらかに偏りがちだが、どちらも撮影できるフォトグラファーとして大きなアドバンテージとなった。
「日本では写真をいかに美しく撮るかという美学を重視しがちです。広告写真家の多くも、著名なフォトグラファーのアシスタントとして経験を積んで、のれん分けのように独立する。でも、誰もがある程度の写真を撮れるようになり、プロとアマチュアの差がなくなってきた今、これから写真家を目指す人は、その差がどこにあるのかを突き詰めて、自分がプロとしてできることを追求していくべきなんです」。
そんな本田さんは、2019年度より大阪芸術大学写真学科の教授に就任する予定だ。「広告写真の市場と主戦場であるメディアが変化し、今広告写真家にとって新たなチャンスの時を迎えています。大学では撮影の技術はもちろん、プロの写真家としてどう生きていくか。写真家である自分にどのような価値をつけていくか。さらには、自分が持つ能力を市場に合わせてどう変形させていけばよいのか、といった方法論を教えたい」。
その撮影技術のみならず、世界各地で仕事をしてきた本田さんの生き方そのものが、学生たちにとって一番の教材となるのではないだろうか。
本田晋一さん
編集協力/大阪芸術大学