プロジェクトの意思決定にリーダーシップが与える影響は?
前田:今日は、マンガ「宇宙兄弟」をモチーフに、リーダーシップについての著作もある長尾彰さんに、プロジェクトとリーダーシップについて聞くということがテーマなんですが、お聞きたいことが二つあります。一つは、プロジェクトの意思決定においてリーダーシップがどのような影響を与えるのかということ。もう一つが、長尾さんのご専門である「ファシリテート」という機能が、プロジェクトに良い影響を与えるのではないかと考えており、それについてのお考えを聞いてみたいということです。
長尾:はい、喜んで。
前田:まず、リーダシップがプロジェクトの意思決定に与える影響についてうかがっていきたいのですが、プロジェクトを任されたプロジェクトマネージャーはどのようなリーダーシップを発揮していけば良いでしょうか?長尾さんの書籍には、自分が率先してアイデアや考えを示してみんなを引っ張っていく賢者風リーダーシップと、みんなに助けてもらいながらプロジェクトを進めていく愚者風リーダシップについて語っておられましたが。
長尾:賢者風リーダーシップと愚者風リーダーシップの違いは、語る言葉が「Should(~しなければ ならない)」と「Want(~したい)」かというところにあります。リーダーはこうあらねばいけないとか、このプロジェクトはこう進めなければいけないという風な考え方になり、それを周囲にも求めるのが賢者風リーダー。一方、愚者風リーダーは「こうしたい」を大事にして、そうするために強制や命令ではなく、「どうすればいいと思う?どうしたい?」と周囲の意見を求めていきます。
前田:未知の要素の多いプロジェクトには前例や正解がない分、「~しなければならない」という考えに縛られているのは危ない気がしてきます。一方で「~したい」という考えを出すばかりではメンバーが付いてきてくれるのかという不安もあります。
長尾:もちろん、何かしたいという思い、こうしたいというwantに「そうだね」と同意してくれるメンバーが必要です。そうしたメンバーのことをリーダーに対してフォロワーと呼びます。リーダーが出した「want」にフォロワーが加わると、wantは「we must」に変わります。
前田:shouldとmustはともに「~しなければならない」という意味になると思いますが・・・
長尾:shouldの「~しなければならない」は外発的な動機づけで、mustの「~するべきだ」は内発的な動機づけです。つまり、「それをやらずにはいられない」という状態のことを言います。I wantがfor meだとしたら、We mustはfor him、for her、 for them、つまり第三者のためのものと考えることもできると思います。
前田:want、should、mustのお話を聞いていると、言葉一つで考え方が変わるというのは面白くもあり、言葉の使い方にとても慎重にならねばという想いを強くもちました。私はどちらかというと、プロジェクトでやることを率先して決めて、会議も自分で仕切って、メンバーにタスクを与えてということをやってきたのですが、未知のプロジェクトにおける意思決定では、リーダーであっても未経験なことの方が多いですから、そういう意味では、愚者風リーダーシップの方が向いているような気がしてきました。ただ一方で率先垂範の賢者風リーダシップが向いているケースもあると思います。
長尾:バーンダウン型(火消し)プロジェクトなどですね。チームや組織の在り方として、ヒエラルキー(階層型)な組織とフラット型-たとえば、最近注目されているティールやホラクラシーと言われるような-組織形態がありますが、バーンダウン型ではヒエラルキーの方が向いているでしょうね。
前田:ヒエラルキーとフラット型では、当然意思決定の仕方も変わってきますよね。ヒエラルキーだとトップダウンでリーダーが意思決定していく必要がありますが、フラット型であればメンバーから意見を募り、それを元に合意形成していくというような。
長尾:だからどちらが優れている劣っているということではなく、プロジェクトの内容によって向き不向きがあるということですね。
書籍案内
『予定通り進まないプロジェクトの進め方』
ルーティンではない、すなわち「予定通り進まない」すべての仕事は、プロジェクトであると言うことができます。本書では、それを「管理」するのではなく「編集」するスキルを身につけることによって、成功に導く方法を解き明かします。
『完璧なリーダーはもういらない』
チームづくりの専門家でもある著者・長尾彰氏が、TVアニメや実写映画にもなった人気マンガ『宇宙兄弟』に登場する数々のエピソードやセリフを引用し、自分の強みを活かしながらリーダーシップを発揮する方法や、理想のチーム作りを指南する!