プロジェクトを阻害するのは評価制度だ
前田:ストーミングやフォーミングといったチームや組織の移行モデルは、プロジェクトの進み方にそっくり当てはまると感じるんですが、プロジェクトという未知の要素の多いものを進めていく上では、想定外の事象やニーズの取り違えなどによって、当初設定した目標が果たせないということがあります。これによってプロジェクトマネージャーは詰め腹を切らされることになるわけですが、長尾さんがファシリテーターとして関わるプロジェクトでは、こうした悲劇を招かないような工夫はしていらっしゃるでしょうか?
長尾:プロジェクトのゴールはあるけど、評価指標がないのが問題なんですよね。何を以てして、このプロジェクトを評価するのか?ゴールは設定されるけど、アウトカムが設定されないことも多い。アウトカムとは、それをやって何がどう変わるのか?というものです。
前田:はいはい!我々はそれをプロジェクトの「勝利条件」と呼んでいます。(編集部注:勝利条件とは、プロジェクトがどのようになっていたら成功と言えるのかという評価基準、定性・定量的な指標のことです)
長尾:そうでうすね。その勝利条件、つまり指標と目標がごっちゃになっている。目標は「Goal」で、指標は「indicator」です。マラソンで言うなら、42.195km走り切るのがGoal。5kmきざみに何分で走る。21km時点を何分で通過しておくというのが、indicator。indicatorというのは「プロセスを測る指標」です。
前田:プロセスをどう測るか?がキモ、ということですね。私たちが書籍で提唱している「プ譜(プロジェクトのプロセスを記述するフレームワーク)」はまさにそうしたプロセスを記録して、プロセスを測る指標を「中間目的」、その中間目的を果たすための行動を「施策」と呼んで可視化することを勧めています。
長尾:ちなみに、評価制度というものがありますが、僕は評価制度がダメなのは、「目標設定」をするからだと思っています。目標設定と言うのは静的・スタティックです。固定された目標を設定してしまうと、出来事に対して受け身になってしまう。受け身になると、チャンスがあるのに、私はこっちの目標だからと無視してしまうんですね。一方で「目標展開」というのは動的・アクティブになります。
前田:ああ、「設定」と「展開」という言葉一つで全然変わってきますね。決められた仕様のシステムを粛々と開発して収めるというタイプのプロジェクトでは展開という言葉はなじまないかも知れませんが、新しい技術や思想でもってつくったサービスなどについては目標展開という言葉が相応しい気がします。そういう未知な要素の多いプロジェクトであればあるほど、事前に目標を設定するのは難しく、周りの環境やニーズなども変化してくるから、静的ではいられない。
長尾:そこで目標を変えられる組織のプロジェクトがうまく進むんですよね。
前田:納得です!
(後編へつづく)
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