アイデアの提案をされて嫌がる企業はない
コピーライターを目指す人から、プロまで、毎年多くの方がしのぎを削る「宣伝会議賞」。制作会社に勤務する郡司嘉洋氏は、第55回「宣伝会議賞」において協賛企業のひとつ、マネックス証券の課題で「協賛企業賞」を受賞した。
同氏はこれをきっかけに、受賞作品を使用した広告クリエイティブを制作、マネックス証券に自主プレゼンを行った。受賞作品の広告起用には至らなかったものの、郡司氏は別の機会に紹介されたトレーディングツール「トレードステーション」を商材に広告クリエイティブを再度、自主制作し、自主プレゼンした。その際、提案した広告クリエイティブが、見事に広告に起用された。
自主プレゼンを行うことになった経緯を郡司氏は次のように話す。「きっかけは贈賞式のパーティの場でマネックス証券の山田真一郎さんとお話をしたことでした。私も10年間株取引をしていることを話したところ、意気投合。制作会社で働いているので、いつか一緒に広告制作ができればよいですね、という話になりました」。
自身の経験の中で感じていたことは、トレーダーの約9割は満足のいく結果が出せていないということ。投資は危ないと思われがちだが、一方で自分の人生を助ける心強い味方にもなる。だからこそ、トレーディングの魅力を、もっと多くの人に理解してほしいと考えたのだという。
「“トレードステーション”の広告はすでにありましたから、当初は自主プレゼンをしても採用されるとは考えていませんでした。でもユーザー視点で見れば既存の広告は少し敷居が高く感じられることも事実です。新しい企画の余地があるのではないか。そう考え、まずは社内スタッフに話をして、少しずつ自主プレゼンに向け、協力の輪が広がっていきました」。
今回の提案はひとりでは無理だったと話す郡司氏。彼の思いの支えになったのは社内スタッフの協力と、「宣伝会議賞」の応募を通じてできた社外の仲間だったという。
その結果、消費者のインサイトを引き出した広告案に加え、新たに商品ロゴも提案し、見事採用に至った。郡司氏が日頃、活用している「会社四季報」に広告が掲載された時の喜びは、忘れられないと顔をほころばせる。
マネックス証券の「宣伝会議賞」担当である山田真一郎氏は、今回の郡司氏の提案を以下のように評している。「マネックス証券は、利用者であるトレーダーのイメージを変えることができるような取引ツール、“トレードステーション”のコピーを募集しました。受賞された郡司さんの作品はまさに、私たちが狙った通りのものでした。
コピーからはツールの魅力への深い理解を感じ、それであれば、他のクリエイティブもお願いしたいと考え、受賞コピーに限らない広告やウェブなどのクリエイティブを依頼しました。ややターゲットを変えた広告を考えていたのですが、もともと商品をご理解いただいていたため、意思疎通もスムースで、作成いただいたものは期待以上でした。『宣伝会議賞』の魅力は、広く広告コピーを公募することで優秀な作品と出会えると同時に、自社商品を深く考えていただける相性のいいクリエイターさんと出会えることだと考えています」。
今回の自主プレゼンは受賞後の「もうひと押し」を行ったことでコピーライターとしての未来を切り拓き、さらなる飛躍につながった好例といえる。
広告掲載が決まった後の周囲の反応を郡司氏はこう語る。「決定後の大きな変化は、社内の空気が変わったことです。今回、会社を上げて新しい取り組みを行ったことで、機会があったら自分も企画書を書きたい、という雰囲気に変わったんです」。
制作会社の通常の仕事では、自主プレゼンの機会は、ほぼ皆無と言える。それは郡司氏が周りを巻き込み新たな流れをつくったことで、意識の変化と仕事への情熱を生むことになった。「大事にしたのは、社内デザイナーの力とコピーの力を合わせること。クライアントが求めていたものにつながる表現をご提案できました。自分が中心になって情報を発信すれば、ふだんは点在している人材をまとめ上げ、それを求める会社とつながることができるんです」。
広告掲載後の自身の変化を「いつもよりはちょっと積極的になった」と話し、笑う郡司氏。何よりも“失敗してもやってみよう”と考えられるようになった気持ちの変化を大事にしているという。
最後に「宣伝会議賞」で受賞し、自主プレゼンを行ってみたい人向けのメッセージをもらった。「自主プレゼンをすること自体が自分を変えることにつながります。これからの広告は、自分から発信することで世の中を変えることにつながる、と感じています。だからこそ、もし迷っているのなら積極的にアタックしてほしい。アイデアの提案を嫌がる企業は、どこにもないのですから」。
好きな人に愛の告白をするのと同じで、フラれてもそこから学ぶことがあるし、お互いの変化にもつながる。だからこそ思い切って告白することをおすすめしたいと語る郡司氏。今年も各企業から出された課題にチャレンジするつもりだ。
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