WBSで「報道する意義」を考える
—大江さんはスタジオを飛び出して取材に出ることも多いですが、企業広報との連携が求められる場面で、特に印象に残っている出来事はありますか。
たくさんあるのですが、中でも強く印象に残っているのは2017年10月2日に特集を放送した「アスクル」の取材です。この年の2月16日、埼玉県三芳町にある同社の物流倉庫で大規模な火災が発生し、大きな話題となりましたよね。出火原因はフォークリフトのエンジンルーム内に入り込んだ段ボール片で、12日間も燃え続けた結果、東京ドーム1個分の面積が焼失してしまいました。
そんな未曾有の火災だったにもかかわらず、アスクルは10月2日、出荷量が火災前の水準まで復活したとして「完全復活」を宣言しました。WBSでは、火災発生から完全復活宣言までの約7カ月間に密着し、物流復活と防災強化に挑む姿を独占取材しました。
この特集は、アスクルの広報の方のお力なくしては成り立ちませんでした。実際に私がヘルメットにマスク姿で火災現場に入り、レポートするという大変貴重な機会もいただいて。倉庫に入ってみると、1階は損傷が少なくてまだまだ使えそうな印象でした。2階以上については、商品やコンベアなどが激しく燃えた跡があって、凄惨な状況となっていました。カメラだけでなく、私が実際に現場に足を運ぶことができたので、「臭い」なども伝えることができ、視聴者の方にもリアルに感じていただけたかなと思っています。
実は、当時はまだ消防の確認作業が続いている段階で、確定したことも言えない状況だったようなのですが、広報の方が各所と調整し、特別に撮影を許可してくださったんです。この対応にはとても感謝しています。
—火災現場の状況だけでなく、その後の復活に向けた全社的な動きも追いかけていましたね。
そうですね。今回の特集のポイントは、「復活に向けた動き」にありましたので。そのひとつが、2017年7月6日に発表があったセブン&アイ・ホールディングス(HD)との業務提携です。火災のニュースを知った同社の井阪隆一社長が、以前から知り合いだったアスクルの岩田彰一郎社長に火事見舞いの連絡をしたことがきっかけだったそうです。
また、新たな物流拠点として、まずは4月に「ASKUL Value Center 日高」(埼玉県日高市)、9月には「ASKUL Value Center 関西」(大阪府吹田市)を設立しました。どちらの倉庫でも、大規模火災の教訓を活かして消火設備を増強したほか、火事で電気系統が働かない状態でも防火シャッターが確実に作動するような仕組みを取り入れています。
このように、逆境からスピーディーに復活していく様子は、ビジネスパーソンを中心とした視聴者にとっても何らかのヒントになるのではないかと考えています。
—取材はどのような経緯で実現したのでしょうか。
WBSがアスクルの復活劇に注目したのは、この事故を通じて「eコマースの全盛期」における課題が浮き彫りになったからでした。近年、eコマースの市場規模の拡大とともに、物流倉庫の巨大化が進んでいます。「倉庫の防火設備の重要性」は今、絶対に伝える必要があるテーマなんです。
そのため、取材依頼時には番組として「報道する意義」をお伝えしました。それを受けて、アスクルの社内でも「どこまで見せることができるか」が議論になったと伺っています。結果的に、こちら側の意向も理解していただき、撮影を受け入れていただくことができました。思い切った決断をしていただきとても感謝しています。