比較されてしまう広報対応
—逆に、残念だと感じた広報対応にはどのようなものがありましたか。
そうですね……いくつか思い当たります。ひとつは、社内の勢力が二分してしまい、双方が記者会見を行ったケースです。
こういった場合、記者は両方の会見に足を運ぶので、それぞれの広報対応を目にします。自然と対応を比べてしまう状況にあるのです。この時は一方の広報担当者がとても統制のとれた動きをしていたので好印象だったのですが、もう一方の広報対応はとても残念でした。
記者会見終了後に残って原稿を書いている記者に、いきなり顔を近づけて「もう時間だから帰ってください ! 」とケンカ腰で言ったんです。閉場時間が迫っているとはいえ、記者も人間です。言い方ひとつで気分が悪くなりますよね。もちろん記者も、その時の感情にまかせて報道することはありませんが、その会社の顔である広報の方が明らかに不適切な態度をとった場合には、その事実をありのままに伝えることはあります。
また、こちらからの質問にほとんど答えていただけなかったり、希望の撮影ができなかったりして、企画自体が実現できなくなるのも残念です。もちろん、言いたくないことや見せたくないものはたくさんあるでしょうし、実際に私が広報の立場であれば同じことを考えるだろうなと思う場面はたくさんあります。
ただ、視聴者の心に響くVTRというのは、メディアと広報が本当に腹を割って話し合えた時にできるものだと思っています。「世の中を良くしたい」「会社を変えたい」という共通のゴールを目指して、ともに良いものをつくっていきたいですね。
今まで以上に「視聴者目線」で
—広報会議の読者からは、「取材の際の質問内容や番組中のコメントが視聴者目線でとても分かりやすい」という意見が多数寄せられています。専門用語の多い経済ニュースを、分かりやすく伝えるために心がけていることを教えてください。
そうなんですね ! 皆さんありがとうございます。WBSのメインキャスターとしての私の役割は、取り扱うテーマに対して知識のある方とない方のギャップを埋めることだと考えています。基本的には、取材で得た情報を噛み砕いて説明するように心がけています。
特に2018年4月からは、専門性の高い解説キャスターの2人が加わったので、私は今まで以上に「視聴者に近い立場」としての役割を意識するようになりました。とはいえ、私も毎回出席している日銀の黒田東彦総裁の記者会見など、様々な取材を積み重ねてきたので、無意識に難しい言葉を使っていないかどうかは気にしています。
例えば、黒田総裁の会見で頻出する「日銀の出口戦略」という言葉。新聞などの報道でもそのまま使われていると思いますが、ある時出口戦略の「出口」の意味ってなんだったかな、と立ち止まって考えたんです。出口とは、「日銀が行っている金融政策を終了させる方向に向かうこと」を指しているのですが、少し分かりにくい表現ですよね。そのためWBSでは、出口という言葉をあまり使用せずに言い換えるようにしています。
また、コメンテーターが出すフリップづくりも担当しているので、いろんなメディアの図版を研究して、どうすれば分かりやすく図解できるだろうかと毎日考えています。
悩んだ時は番組スタッフに相談することもあります。「まったくこの話を知らない方にも簡単に理解できるように伝えるにはどうすればいいのか」「本当にこの言葉で伝わるのか」などと話し合っていますね。
—生放送なので、臨機応変な対応が必要な場面も多いですよね。
それはもう毎日のようにあります。常に新鮮なニュースをお伝えするのがWBSの使命でもあるので。特に、2017年1月にトランプ大統領が就任してからは増えました。番組がスタートする午後11時は、ホワイトハウスがあるワシントンD.C.の現地時間で午前9時(サマータイム中は午前10時)にあたるため、番組開始前後のタイミングでトランプ大統領がTwitterを更新することが多いのです。
例えば2018年5月24日には、オンエアの約5分前に、6月12日に予定されていた米朝首脳会談について「金正恩氏に中止を告げる書簡を送った」というツイートがありました。そのため急きょ番組の編成を変え、このニュースを冒頭で扱うことになりました。
こういった速報を伝える場面では、一次情報を伝えた後、「それが今の世界経済にとってどんな意味を持つのか」という一言を加えることで、WBSで報道する価値が生まれると考えています。その場での対応が求められるので緊張する局面でもあります。
「働き方」の多様性に注目
—大江さんはメインキャスターを務められて5年目に入りました。この4年間で特に注目してきたテーマはありますか。
世の中を取り巻く状況にはいろいろな変化がありましたが、やはり顕著なのは「働き方改革」です。最近ではシェアリングオフィスやテレワークが広まり、副業を認める企業も随分と増えてきました。少子高齢化に対応するためにも、働き方の自由度を上げようという機運が高まっています。
番組内でも、働き方の多様性を取り上げる機会が増えました。WBSの視聴者は経営者やビジネスパーソンも多いので、各社の事例を知っていただき、自社と比較・分析しながら進めてほしいと思っています。「働き方改革」には、今後も引き続き注目していきたいです。
『広報会議』2018年12月号(11月1日発売)では、「テレビ東京」を大特集。WBS・ガイアの夜明け・カンブリア宮殿など経済番組の裏側に迫る、約50ページの総力企画です!
【主な内容】
◎INTERVIEW メインキャスター 大江麻理子
WBSで「報道する意義」とは何か? 広報の皆さんと“腹を割って”お話したい
◎テレビ東京の経済番組 完全攻略ガイド2018
◎経済を”映像”で見せる 『WBS』30年の歴史と挑戦
野口雄史(チーフ・プロデューサー)
◎取材経験豊富な解説キャスター 鋭い視点で世界経済に切り込む
滝田洋一/山川龍雄
◎“経済の最前線”から全力リポート フィールドキャスターの役割とは?
相内優香/須黒清華
◎「トレンドたまご」統括デスク 取材決定までの裏側を公開
◎オンエアに間に合わない? チーム全員でネタ探しに奮闘
トレたまキャスター 片渕茜/北村まあさ
◎『ガイアの夜明け』チーフ・プロデューサー 野田雄輔
レオパレス21などスクープ連発 2018年度から独自報道に力
◎ワンオペで炎上した「ナポリの釜」の今
◎『カンブリア宮殿』チーフ・プロデューサー 桧山岳彦
2カ月の取材と村上龍の視点で 経済人のストーリーを描き出す
◎『Newsモーニングサテライト』佐々木明子(メインキャスター)
経済ニュースを網羅できる ビジネス人の究極の「朝活」
ほか
【企画の趣旨】
「広報が取材されたいメディア」といえば、テレビ東京の経済ニュース番組『WBS(ワールドビジネスサテライト)』。その影響力は絶大で、広報担当者の間では「WBS砲」という造語も存在するほど。他にも『ガイアの夜明け』『カンブリア宮殿』といった人気番組を多数擁する、テレ東の番組づくりの裏側とは? 各番組のプロデューサーらに密着し、制作・取材の裏側を大解剖します。
詳細はこちらから。