これまでの知見は使えない!?一変した広告の仕事の現場
─広告・マーケティングのみならず、企業活動におけるデジタルシフトは、もはや不可逆な流れにあります。2人は激変するマーケティングの最前線を体感していらっしゃるのではないでしょうか。
土橋:スマホの出現でお客さまの購買行動がガラリと変わりました。それは、車のマーケティングのノウハウがゼロになった瞬間とも言えます。それでも、この変化はまだ第4次産業革命の入り口にすぎない。今後、新しいメディア・デバイスが登場するたびに、購買行動は変わっていくでしょうし、もはやマーケティング活動の絶対的な解など存在しえないのだと考えています。
坂井:これからはトライ&エラーを延々と繰り返していくことになるでしょうね。広告主企業には、柔軟なマーケティング体制が求められていますし、そこに寄り添うエージェンシーにも、これまでとは違うパートナーシップの在り方が求められていると感じています。
土橋:先ほど、お話ししたようにマーケティング活動の絶対的な解など存在しえない時代だからこそ、データの活用が欠かせません。データを基軸にリアルタイムに判断を下していく。宣伝部の仕事は大きく変容したと言えますね。
坂井:効果を可視化し、PDCAを回して精度を高めていく。しかし言うは易く行うは難しで、土橋さんがおっしゃるようなデータドリブンのマーケティングを推進していく上では、広告主とエージェンシーは良好な関係性を超え、一体化することが求められているのではないでしょうか。
土橋:そうですね。特に宣伝部門にとってはネット広告をはじめとするデジタル活用に伴うアナログ作業の増大が大きな課題になっています。私が、広告の仕事を始めた当時に比べ、制作するコンテンツ量は何倍にもなっていますし、また広告効果も日次でデータが出てくるのでキャンペーンが始まってからも常にPDCAを回していかなければなりません。前職ではエージェンシーの方たちには良い提案を持ってくるのも大事だけれど、業務の生産性を高める提案も一緒でないと、宣伝部がパンクするという話をよくしていました。
坂井:大切なのは、お互いの業務を、高付加価値と、そうでないものとに仕分け、何をオペレーションと定義するかだと思います。リアルタイムに成果を見て意思決定を下せるデジタルマーケティングでは、日々データを間に挟んでコミュニケーションをとり、より有効な施策を講じることができます。その一方で当然、工数は増えてしまう。確実に効果は上げながらも考えること、議論することに時間を投資できるよう、オペレーションを定義し、そして極力排除すべきです。
当社でも、多くのエンジニアを抱える強みを生かして、業務を効率化させるソリューションの開発・提案にも力を入れてきました。また沖縄やベトナムに運用を専門にする人材を抱えているので、そうしたリソースも提供しています。オペレーションは極力、排除すべきという方針でソリューション開発を続けています。最近も、API未提供メディアにおけるRPAを活用した実績データの自動収集システムを開発し、先行導入の事例ではレポート作成にかかる工数を月間6000時間削減することに成功しています。
ある程度は権限を委譲 事前の役割分担が必要に
土橋:初めて坂井さんと一緒に仕事をしたとき、部下に勉強もさせたかったので、すべての広告を確認、判断したいと言って、大変なことになりました…。
坂井:事前に互いの役割を分担し、ある程度エージェンシー側に権限委譲してもらうことも必要だと思います。
土橋:広告主は複数のエージェンシーとの付き合いがあるので、パートナー企業のチーム体制づくりも次なる課題です。最近では、総合広告会社とデジタルエージェンシーと3社でプロジェクトを推進するケースも増えていますね。
坂井:エージェンシー側にも、チームの組み方に際して柔軟な対応が求められていますよね。サイバーエージェントでも総合広告会社さんと協業するケース、またテレビCMの企画・制作も含めて当社が総合プランニングを1社で任されるケースなど、その時々のニーズに合わせた体制を組むようにしています。またチームづくりにおいては体制だけでなく会議体、役割分担や権限などをカスタムで対応。その知見も蓄積されてきたと思います。
土橋:専門性を持ちながら、統合的な広告コミュニケーション戦略も企画・実行できる。そうした新しい形のエージェンシーが求められているのでしょうね。
坂井:2016年に設立した、次世代ブランド戦略室を中心に、当社では250社を超えるナショナルクライアントさまとお付き合いをいただいております。デジタルマーケティングの知見は生かしつつ、そこにとどまらない提案が求められていると感じています。
理想の関係性は広告主との一体化
─マーケティングのデジタル化とは、マスからネットへの広告投資のシフトといった領域の話にはとどまらないことなのですね。今、求められているのはビジネスに貢献するデジタルの活用を推進すること。お2人がこの課題に対して、取り組んでいることをお聞かせください。
土橋:一番、期待しているのはデータの活用です。車で言えば、今後はこれまで分断していた販売店のデータとも融合し、例えば広告投資効果も可視化できるようになっていく。従来、宣伝部の活動は中間指標で評価するしかありませんでしたが、最終的な売上まで追えるような環境になっていますよね。つまりは、宣伝部門もより売上に貢献できる活動を行える環境になりつつあると考えています。
坂井:そうですね。広告の売上に対する貢献度も、より可視化できる状況になり、売上責任を果たすことが、宣伝部さまにおいても重要なミッションです。加えて、私たちはインターネット、デジタルの可能性を広告・コミュニケーション領域にとどめずに活用していく提案も積極的に始めています。“ネット広告専門”のエージェンシーではなく、広告に限定せず、インターネットを通じて、最も企業の売上の拡大に貢献できる会社が目指す姿。よりマーケティングの川上から、ご一緒させていただきたいと考えています。
─最後にこれからの広告主とエージェンシーのパートナーシップの在り方について、どう考えているか、お聞かせください。
土橋:広告主とエージェンシーが一体化するような組織のつくり方が求められているのではないでしょうか。
坂井:私もそう思います。エージェンシーはメディアやクリエイティブのプロフェッショナルであると同時に、広告主のことを知り尽くしているという意味でのプロフェッショナルでもあるべき。その知識があるからこそ、戦略立案だけでなく実行力まで兼ね備えているエージェンシーならではの強みがさらに生かされるのではないでしょうか。
土橋:一体化はますます複雑かつ煩雑になる宣伝部の仕事を支援してもらうためには、広告主側にとっても必要なことですし、またデジタルを活用してビジネスに貢献する提案をしたいと考えるエージェンシー側も求めていることですよね。
坂井:デジタルシフトは単なる予算のシフトから、本質的な成果につながるシフトへと強く関心を変え、その比重の高まりから経営判断においても、重要性は増していく一方です。今はまだ過渡期にありますが、広告主とエージェンシーが、進化の著しいメディア企業をも巻き込んで、ともに数年後を見据えた議論をし、手法やKPIはもちろん、パートナーシップの在り方についても、整備していく必要がありますね。
サイバーエージェントは10月10日、インターネット広告事業において、RPA(Robotic Process Automation )を活用したAPI未提供メディアの実績データ自動収集システムを開発したと発表した。従来、API未提供のメディアの広告運用においては、運用管理画面から実績データを一度ダウンロードし、広告主企業へ提出するレポートフォーマットに合わせて情報整理を行う必要があり、このレポート作成業務に膨大な人的リソースが必要とされていた。
そこで同社ではAPI未提供メディアにおけるRPAを活用した実績データの自動収集システムを開発。人的作業をシステム化したことで、アウトプットデータの品質担保および案件増加に対応するリソース確保の実現に成功している。
先行導入の事例では、レポート作成にかかる工数が月間6000時間削減することができた。サイバーエージェント インターネット広告事業本部 セントラルアカウント室 室長の毛利真崇氏は、「日本において広告業務におけるRPA活用は、まだ始まったばかり。今後、当社ではAI(Artificial Intelligence:人工知能)を掛け合わせることで、高度な知的業務も処理できるようRPAの活用を推進していく考えだ」と話している。
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株式会社サイバーエージェント
インターネット広告事業本部 次世代ブランド戦略室
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