ソーシャルイノベーターのアイデアを社会全体へと広げる後押し
では具体的にどんなプロジェクトがあったのかということになるが、一つの事例を紹介しつつ、レッドブルがこれになぜ取り組んでいるのかも考えてみたい。
Red Bull Amaphiko (レッドブル・アマピコ)、2014年に南アフリカから始まり、ブラジル、北米に広がったレッドブルが行なっているソーシャルアントレプレナーのためのプログラムだ。その一例として、23歳の南アフリカ在住の女性が、たくさんの捨てられているプラスチック袋からソーラー機能つき学生用のバッグを作るというアイデアをサポートした。プラスチックといえば、最近ではマクドナルドやスターバックスがプラスチックストローを全廃するといったことがニュースになり、SDGsという観点から多くの注目が寄せられており、現在は企業から個人まで何かしなくてはといったムードになってきている。
南アフリカも同様で、自然の中にたくさんのプラスチック袋が散在し環境を汚染している、同時に学校に行くためのスクールバッグがない、夜間勉強するために電灯がないという複数の社会的な課題から考えられたアイデアだ。スクールバッグを作るだけでなく、昼間の学校への移動中にバッグについたソーラーパネルを充電し、夜はそのソーラーパネルを瓶に入れて勉強や本を読むことができるようにするといった一石二鳥なソリューションである。当時はまだ2014年、まだ23歳の若さでアイデアを考えただけでなく、そのアイデアを実現していったわけだが、その後たまたまビル・ゲイツ氏が彼女の活動を知り、発信したことが次なる新たな活動につながったと聞いている。
アイデア自身はシンプルで、ただ日本だとなかなかそんな課題を実際に目の当たりにすることがないのだが、私はそんな活動をしているソーシャルイノベーターと対面し、さらなる夢の実現に向けて後押ししていくことが、「レッドブル翼を授ける」の大きな意義であると考えている。
レッドブルの活動の根源は、すべて“Red Bull Gives You Wings = レッドブル、翼を授ける”に尽きる。エナジードリンクを通じて人を元気にすることは勿論だが、単なる飲み物を超えて、そのブランドの活動は、“人”と“アイデア”に翼を授けていることを継続的に実際に行なっている。アスリートをはじめとした才能溢れる人自身のサポートだけでなく、様々な人から生まれたアイデアをどうやって実現するのかもサポートする。つまりソーシャルイノベーターやアントレプレナーのアイデアをサポートすることは自然な流れだと思っている。
一般的には、たくさんのイベントやアスリートにお金を使っているような印象を持たれるのだが、翼を授けるの意味は、お金のみで解決するものでなく、多くの活動には、アカデミーやワークショップといった才能溢れる人達のために特別な場を作ること、参加できるイベントを作ること、イベントにはフェスといった多くの人に興味を持ってもらえるような要素を入れること、そしてその活動をできるだけ人の感情を動かすようにコミュニケーションすることが大事である。つまりサポートすることやアイデアの実現に向けて何がベストなのかをとにかく突き詰めていくことや一緒に考えていくことが基礎にある。そのような継続的な活動が、次第に今回のようにビル・ゲイツ氏の目に触れることになるのは自然な流れだと考える。
スタートアップ企業などの場合は、賞金や報奨金を出してそれをまずは実現し、拡大していこうといったやり方が最適な場合もある。しかしながら、レッドブルの場合は投資家ではないので、どちらかといえばお金で解決するより、どうやってそれを実現するかを一緒に考えて場を作ることに焦点を当てているからこそ、長期的な関係づくりが生み出され、さらにそこからお互い学び、次へのステップが生まれることが大事だと思っている。後押しはするが、最後はソーシャルイノベーター自身で実現に向けて努力する、それをサポートするといったことを常に考えてきた。その中で最も肝心なのが、アイデアを生む→実現する→その発信を工夫する、ということである。思えば、この活動は結果的には、ソーシャルイノベーターとレッドブルというブランド両者に翼を授けていっているかもしれない。
最初に戻るが、アスリートが自身やシーン全体の夢の実現に向けて活動するように、ソーシャルイノベーターも明るい未来のために夢を実現する活動を行なっている。知名度の低いシーンを広げるのと同様に、ソーシャルイノベーションを小さなところから起こし、周囲へ社会全体へと広げる後押しをしていくことはこれからの企業にとってとても大事なことだと思っている。しかし、それをその企業のミッションや活動と繋げて特徴を出すためには、「どんなやり方で取り組むのか」がもっと重要なのかもしれない。
企業におけるインフルエンサーの活用は今や多岐にわたっているが、企業のビジョンやミッションをベースに考えてみると、まだまだ今まで取り組んでいない分野でのやり方がたくさんあるかもしれないし、小さな一歩がやり方によっては企業ブランドや価値を高める活動に繋がると思うと、その可能性は無限でワクワクした気持ちになる。
長田新子
一般社団法人渋谷未来デザイン 事務局次長兼プロジェクトデザイナー
AT&T、ノキアにて、情報通信及び企業システム・サービスの営業、マーケティング及び広報責任者を経て、2007年にレッドブル・ジャパン入社。最初の3年間をコミュニケーション統括、2010年から7年半をマーケティング本部長として、日本におけるエナジードリンクのカテゴリー確立及びレッドブルブランドと製品を日本市場で浸透させるべく従事し、その後独立。現在は2018年4月に設立された一般社団法人渋谷未来デザインの事務局次長兼プロジェクトデザイナー。