なぜ、独自のブランド資産が重要なのか
ジェニー・ローマニアック氏は続編である『How Brands Grow Part 2(2016年刊 未邦訳)』および自著の『Building Distinctive Brand Asset(2018年刊 未邦訳)』において、このDistinctive Brand Asset(独自のブランド資産、以下DBAと略)について書いています。それは著書のなかで、多くのブランドがそのような資産をきちんと管理されていないために、安易なパッケージ変更をはじめ、短期的にすぐに切り替わる広告キャンペーン、メディアでの一貫性に欠けるブランド表現などに陥っている現状を問題視しているためです。
シャープ氏は特に高価なテレビCMにおいて、わずかテレビ視聴者の16%しか「広告に気づき、そのブランドのものだと認識していない」ことを指摘しており、この要因の一つはこのDBAのマネジメントができていないからだと示唆しているのです。
また、ブランドの独自性は差別性と、混同されやすいですが似て非なるものです。似ているのは、それはブランドが固有のネットワーク連想を伴うことです。特にこれは同カテゴリーのブランド間よりも、カテゴリーによって大きく異なることが予想されます。
つまり、アップルはリンゴのマーク、Macやスマートフォンなどの連想を持ち、スターバックスなら緑のセイレンマーク、コーヒー、カフェなどの連想を持ちます。異なるのは差別性の中に、そのブランドが唯一持っている特性があるかどうか、という評価に関わるところです。
PCの購入者グループであれば、アップルがブランドとして特別である点は、マイクロソフトなどの競合に比べてそれほど大きいわけではなく「どのブランドも買ってOK」程度の評価なのです。シャープ氏はこのようなことが事実である理由として、米国では自動車としてルノーよりもフォードのほうが、シェアが高いのは、それはルノーがブランドとして劣っているわけではない。実際、仏ではルノーのほうがフォードよりもシェアが高く、それは単にルノーのほうが米よりも仏の購買者に想起されやすいからだと述べています。
この「想起されやすい」ことがブランドの独自性が役に立つところです。この想起しやすさはもちろん、前回、紹介した「メンタルアベイラビリティ」のことです。想起しやすさにはこれも前回の記事で紹介したカテゴリーエントリーポイント(CEP)のように購買状況連想の幅広さ、強さなどが影響しますが、それらをブランドに結びつけることを容易にするのがDBAというわけです。
加えて店頭での見つけやすさにも影響を与えるDBAは「フィジカルアベイラビリティ(手に入れやすさ)」にも効果があります。店舗の棚の前での見つけやすさに加え、デジタル環境においては二次元の小さいスクリーンでのロゴや商品の見つけやすさに大きく作用します。