ゴッドタンの「キス我慢」に、台本ってあるの?(ゲスト:劇団ひとり、佐久間宣行)【後編】

「キス我慢」に台本はあるのか?

中村:ひとりさんの場合は、60分ぶっつけの芝居やコントなどのネタを一体どういう風につくってるのかなって。それこそ台本に書いていることは絶対にないだろうと。

ひとり:いや台本めちゃめちゃ書きますよ。

中村:え、マジですか?

ひとり:めちゃめちゃ書きます。何回も推敲します。結構、一文字レベルで書きますよ。コンビのときは書いてなかったんですけど、1人になってからは書きますね。台本書いてないと思ってました?

中村:・・・いや(笑)。

佐久間:ネタによるかなと思ってました。たとえば“春樹”や用務員さんのネタは、キャラクターに入ってしゃべっているうちにどんどん出てくるのかなって。

ひとり:しゃべりながら書いている感じです。つくりながら、しゃべりながら、稽古しながらつくっているから、台本ができた時点でほぼ稽古もしなくていいレベル。しゃべりながら動きながら書いてるから。

佐久間:バカリズムの台本も見せてもらったことあるんですけど、よく考えたら川島さん(ひとり)や升野英知さん(バカリズム)ってとんでもない分量ですよね。1人で覚えないといけないセリフ量が一人芝居と変わらないから。

ひとり:確かにね。だから、そういう癖がついているからキス我慢もできたのかなと思うんです。普段からしゃべりながら書く作業をしていて、やりながらつくっている感覚があるのかもしれない。

中村:キス我慢は台本ありますよね?

ひとり:佐久間さん側、スタッフ側はあるんですよ。

佐久間:相手役をやってもらったハイバイの岩井秀人さんとトークイベントをやったんですけど、そのときにどれだけ大変だったかという話をされていましたね。だいたい台本の最初にハイバイの岩井さん、みひろのセリフが書いてあるんですね。その後、劇団ひとり「・・・」、「たぶん、かっこいいことを言うはず」、「何も言わないかもしれないけど、ここは間をとりましょう」とあって。

その台本を劇団ひとり以外には渡されて、リハをやって、ひとりがこう来たらこうしましょうとエチュードを続けて、それで臨む感じです。川島さん(ひとり)は何も見ないで来るから、台本の「・・・」のところで何も言わないときは言わないんだと思ってみんな進みます。

ここで割って入るのかと思ったら、岩井さんが僕のほうをちらっと見て、途中で僕が一瞬だけ「ここで台本に戻しましょう」とカンペを書いたりして。劇団ひとりという猛獣をみんなで物語に戻したりしていく、という収録の仕方です。

ひとり:「ゴッドタン」はまわりをいつも天才で固めてくれるんです。だからめちゃめちゃ楽で。俺、本当に適当なんですよ。かっこいいっぽいセリフ、自分に酔って適当なことを言うと、間違ってたときはうまい具合に岩井さんが修正してくれるし、みひろも何を言っても対応してくれるし。

中村:みひろもいいんですね?

ひとり:いやもう天才ですよ! 僕が何を言っても返してくれますからね。ちゃんとそれっぽいセリフで。

中村:そうか、あれはお芝居のエチュードなんですね。

佐久間:そうです。ベースの台本だけありながらエチュードで進んでいって、とんでもない方向に転がりはじめたら台本にちょっと戻すか、そのままいってもらうように、誰かの天才にキーワードだけ渡してこっちでいってと。

ひとり:向こうも気迫がすごいんですよ。どんと来いやという顔で、「ほら、何言うんだおまえ」と(笑)。唯一、何もしゃべらせてくれなかったのは京本政樹さん。

一同:(笑)

ひとり:京本政樹さんは自分のセリフでガチガチに決めて、一言もしゃべらせないぞ、お前って。

佐久間:俺に台本以外のセリフを言わせるなよと。

中村:キス我慢だと一時期何回か続けてやってたのが、じつはタイムリープして未来からやってきたという設定がありましたよね。

ひとり:ありましたよ。ややこしいやつ。

中村:エチュードは即興劇だから、その場で考えてアドリブしなければいけないけど、その設定を急に出されたら絶句すると思いますけどね。

ひとり:全然わからないです。急にロッカーの中に入れられて、起きたら数十年後みたいになって。何だこれって。

佐久間:そういう負荷をかけて何を言うかなと。でも劇団ひとりだって近藤芳正さんと向き合って、最後の対決みたいになったときに、「だから僕が憎かったんだね、父さん」って言いはじめて。勝手にお父さんにして、そのときの芳正さんの顔が「やべーこいつそう来たんだな」と。でも一瞬で飲みこんで、「そうだ、俺はお前が憎かったんだ」と言いはじめた瞬間にぞくっとしましたよね。

ひとり:あれは僕が一番楽しいと思います。僕が昔からそういうヒーロー的な憧れというか、今でも普通に自分が撃たれるところを勝手に想像したりして。誰にも狙われてないんですけど、刺されて死ぬ直前を勝手に想像して涙したりしてるわけですね。ああいうのをふんだんに仕事としてできる場だから、めちゃめちゃ楽しいです。

中村:あっという間に終わりの時間が近づいてきてるのですが、ひとりさんは多才な方ですが、今仕込んでいる新しいチャレンジってあるんですか?

ひとり:仕込んでることはあるんですよ・・・言えない。仕込み中だから来年は人生で一番忙しくなるんじゃないかなぐらい仕込み中です。

中村:じゃあ来年に期待ですね。

ひとり:そのときはまたここで宣伝させてください。「ゴッドタン」もNetflixで見られるので、もしよかったら。

<END>

構成・文:廣田喜昭

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