企業やブランドにとってのアダムⅡ
SNSをプロモーションの場としていかに効率的に業務へと活かしていくべきか、そういった相談を多くいただきます。それは、SNSがそのような場へと急速に変化を遂げていることの裏面でもありますが、だからこそ、アダムⅠ一辺倒のものの見方に支配されるのではなく、アダムⅡの側面も守る必要性を感じます。そうしなければ、交わされるコミュニケーションはどんどん貧しいものになっていってしまうでしょう。
このような言い方もできます。SNSでは、ユーザーも企業もブランドもひとしく人格的な存在として認知される、見なされるということであり、それはペイドメディアなどで「良いところを見せる」ものとは機能的に異なっており、信頼感や等身大感が求められるということでもあります。
アダムⅡとSNSとの相性は、著書の中ではキャンペーンの事例分析を行った第6章と紐づけることができます。そこでも詳細に分析した「#ポカ写」(大塚製薬が実施した写真投稿型のキャンペーンで、ポカリスエットを使った“映える”写真を女子高生が中心となって撮影しシェアした)はその観点からも素晴らしいものでした。単なるプレキャンやニコパチ(モデルが「ニコッ」と笑った顔を正面から撮影したもの)のような、「広がればOK」の話ではなく、ユーザー(この場合は主に女子高校生)のためになっていたからです。広がればOKという一方的な視点は、アダムⅠ的な考え方に他ならないのです。
デジタル上での行動はすべてがデータとして捕捉されます。だから、私たちは自分自身をあらわす「数値」にとても敏感になります。しかし、そこにこだわりすぎないこと、距離を置くことの大切さを痛感します。SNSで発信すること、コミュニケーションすることの意義はそこに限らないのです。
発信をすることで自分自身がより理解できるようになったり、関心の近い人との縁が生まれコミュニティができてきたり……。そのようなこと一つひとつに価値がある。これは主体が人でも企業でもブランドでも大きな違いはないと考えます。
ウェブ上の情報流通が成熟したことで、逆説的に小さなコミュニティを築くこと、そこに所属する感覚をユーザーが所持できるかどうかがより重要になっています。そして、そのようなコミュニティを紡ぐうえでも、アダムⅡ的なシェアの実践が欠かせないものになっているのです。
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