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満員劇場御礼座『平成グッドバイ』
「満劇」、正しくは劇団「満員劇場御礼座」をご存知だろうか。関西を拠点とする、今年で創立25周年を迎える劇団である。2000年からは2年に1度、東京でも公演を行っている。彼らが得意とするのは、名もない市民の生活の中で生まれる事件や喜怒哀楽。しかも、1回の公演で20分程度の短編を5〜6話続けて上演するという独自のスタイルを続けている。
そんな劇団の中心にいるのが、キンチョーやサントリー、日清紡などのテレビCMのクリエイティブディレクターとしても知られる、淀川フーヨーハイこと中治信博さん(ワトソン・クリック)だ。大学時代に劇団に所属していた中治さんが卒業後、新たに立ち上げた劇団が「満劇」の始まり。電通関西入社後も年に2回ほど公演をしていたという。
「最初はサラリーマンのニューウエーブ劇団として注目されたのですが、だんだん練習時間が取れなくなり、集まりも悪くなり…で息切れして、長編の芝居をつくるのが難しくなってきた。そこで編み出したのが、いまの短編を数本上演するというスタイルなんです」と、中治さんは話す。
そんな満劇には、世にある多くの劇団とは異なる特徴がいくつかある。その一つが、劇団員の職業。電通関西支社のCMプランナー、コピーライターを中心に、ディレクター、Webデザイナーなどで構成されているサラリーマン劇団で、その多くが広告関連のクリエイターである。現在、座長はクリエイティブディレクター 田中義一さんが務めている。
そして、劇団員には芝居経験者が少ない。クリエイティブディレクター田中直基さんも、中治さんに誘われて満劇に参加した一人だ。裏方を経て、4年前に役者としてデビューしたが、「30歳を超えて、初めて芝居をしました」という。「演劇の経験がなくても、芝居ができる人ってたくさんさんいるんです。お客さんも演技がうまい役者を観たいわけではなく、その人が輝いている瞬間を見たいはず。だから、セリフの上手い下手はあまり気にしていません」(中治さん)。
そして、何よりも満劇らしいのが5〜6本の短編集で構成される芝居だ。中治さんいわく「みんなで集まる時間がないから、集まらなくても効率よくできるプレハブ型演劇」。テーマを決めて脚本を劇団内で公募し、その中から上演作品が選ばれることもある。
「普通の劇団だと絶対的な作・演出家がいて、役者がそれに従うことが多いけれど、満劇は役者としてだけではなく、誰でも脚本を書いて、演出することができます。書き手も多いし、アイデアを出す人もたくさんいることや、それぞれの短編で何を見せるのか、企画がはっきりしているところも、広告の仕事と通じるところもありますね」と、クリエイティブディレクター 直川隆久さん。
元新喜劇の脚本家だったコピーライター武尾秀幸さんは、「作演出をした人が次の芝居では役者として出演したり、それぞれの役割が固定されていないところが満劇ならではと言えるかもしれません」と話す。
12月に東京・ウッディシアター中目黒で行われる公演「平成グッドバイ」では、平成を振り返り、ニュースに現れなかった市井の人々にスポットライトを当てた6本の脚本が選ばれた。これは劇団員全員で出した40案の中から選ばれたもの。
「2年前に『ぎこちない幸せ』という公演を行ったのですが、満劇が描く世界は毎回それがテーマだなと思っています。世の中にとっては小さくてどうでもいいことだけど、その人にとっては大事件だったり。ハッピーなんだけど、泣けたり」(武尾さん)。
満劇の場合、そもそも演劇というものを見るのが初めて、知り合いに連れて来られた、舞台は見に行かないが、ここだけは見に来るという人が圧倒的に多いという。
「ハードルが低く、良くも悪くも演劇っぽくないところが満劇らしさ」という中治さんは今回、作演出のみならず、満劇の人気コンテンツ「肯定ペンギンのペンペン」で役者としても舞台に立つ。広告クリエイターたちがつくる、唯一無二の舞台。演劇ファンも、演劇なんて見たことがないという人も、ぜひ一度体験してみてはどうだろうか。
満員劇場御礼座 東京公演『平成グッドバイ』
12/6(木)19時、12/7(金)14時、12/7(金)19時、12/8(土)14時、12/8(土)18時、12/9(日)14時(開場は開演の各30分前)
中目黒ウッディシアター
■演目
第1話「Wサカイの30年」作演出・桂雲吞(山村啓介)
第2話「母への電話」作演出・目黒カンパチ(田中直基)
第3話「さよなら、ガングロ先生」作演出・あべの金欠(武尾秀幸)
第4話「ある夫婦」作演出・堂島サバ吉(直川隆久)
第5話「平成5年の肯定ペンギン」作演出・あべの金欠(武尾秀幸)
第6話「しゅうかつ」作演出・淀川フーヨーハイ(中治信博)
■前売り:3500円、当日:3800円(自由席)
■問い合わせ: info@mangeki.com