銀座の街を大阪の学生がリブランディング
3代にわたり続き、日本を代表する老舗テーラーとして知られる銀座・壹番館洋服店。9月のある日、その店内で同代表の渡辺新さんの話を聞き、生地に鋏を入れる様子をじっと見つめる学生たちがいた。これは大阪芸術大芸術計画学科が進める新プロジェクトの授業の一コマ。同学科では1年生を対象に、銀座の街をリブランディングするプロジェクトをスタートした。
「なぜ大阪の大学生が銀座のリブランディング?と不思議に思うかもしれませんが、銀座の新しい魅力や価値を見つけるためには、対極とも言える大阪に住む彼らの視点が必要でした。そんな彼らが銀座という街をどのように表現するのか、これはその化学反応を見る実験の場でもあるのです」と話すのは、杉山恒太郎客員教授。
同じ銀座にある名門の広告デザイン会社ライトパブリシティの代表を務め、クリエイティブディレクターでもある杉山さんを中心に、同社プロデューサー 井上貴人さん、コピーライター 山根哲也さんが担当する講義において、このプロジェクトは実施されている。
伝統と革新、職人と商人、守ると壊す、その間をジグザクと行き来しながら発展してきたのが、銀座という街。そして、「銀ブラ」という言葉が象徴するように、銀座はジグザクと回遊できる街ー。新しい銀座を発信していくにあたり、杉山さんたちはこのプロジェクトを「ZIGZAG,GINZA」と名付け、ロゴマークを制作。学生たちが銀座を訪れた初日に、プロジェクトのステートメントを記したカードを一人ひとりに渡した。
今回のプロジェクトで、杉山さんは「自分の身体で体験してもらう」ことを重視。単なる見学会で終わらせるのではなく、自分の体で体験し、発見したことを、アイデアとしてまとめることが学生たちには求められた。
1泊2日の日程で、学生たちは杉山さん、渡辺さんの案内の元、Bar.R、壹番館洋服店、寿司幸本店、そば所 よし田、洋食 煉瓦亭を訪問。それぞれの店で一流の職人たちの技と味を体験し、銀座通りの歩行者天国や通りを隅々まで巡り歩いた。
「例えばホコ天は銀座で働く僕らにとっては日常の光景ですが、初めて訪れた学生たちの目にはとても新鮮に映ったようです。後日、授業で新しい銀座を表現するアイデアを発表してもらったのですが、銀座の通りを縦に見ると面白い、銀座は色がきれいなど、プロでも気づかない新しい発見がありました」。
また、このプロジェクトでは、実践を通して「プロデュースとは何か」ということも教えている。「プロデューサーにとって大事なのは、現場を見ることでもありますから」。こうした取り組みを通して、従来の産学連携とは違う新しい何かが生まれてくる、そんな兆しを感じたという。近い将来、そのアイデアを具体的な形にして発信したり、展示をすることも考えている。
世代交代する店が増え、変わっていこうという意識が高まりつつある銀座の街。「そんな銀座に “次の時代の銀ブラ” を流行らせたい」。同プロジェクトを経て、杉山さんたちはいま、そんなことを考え始めている。
杉山恒太郎さん
編集協力/大阪芸術大学