インサイトを探る対象を定める「道しるべ」を活用する
では、「ブランドや商品から離れて人間を見に行って興味関心事を知り、そのインサイトを探る」ことを、実際の仕事としてはどのように進めればよいのでしょうか?
ただ漠然と「人間」というだけでは、あまりに対象となる領域が広すぎて、何について考えればよいのかわかりません。手間も時間もかかってしまいます。そこで必要なのが、人間を見に行くための「道しるべ」ともいうべき視点です。これに沿って考えて行くことで、探るべき領域が見えてきます。
「道しるべ」のひとつに「生活の14カテゴリー」があります。これは、人間が生活していく上でお金と時間を使っている全部の領域を14に分類したものです。具体的には、次の14のカテゴリーになります。
2.健康・ヘルスケア・医療(健康管理、トレーニングなど)
3.遊び・エンタテインメント(余暇、趣味など)
4.買い物・買い方(店舗や通信販売によるショッピングなど)
5.仕事・働き方(ワークスタイル、スキルアップなど)
6.IT・メディア・コンテンツ(デジタルライフ、テクノロジーなど)
7.家事・家族ケア(洗濯、子育てなど)
8.恋愛・友人関係(コミュニケーション、サークル活動など)
9.食べること・飲むこと(食事、飲酒など)
10.学び・教育(勉強、習い事など)
11.住まい・住まい方(インテリア、リフォームなど)
12.マネー・ライフプラン(貯蓄、資産運用など)
13.モビリティ(車、通勤・通学など)
14.社会活動(エコ活動、地域活動など)
これらの中から、PRの対象となるブランドや企業との関連性を見て、調べる領域を選びます。そのブランド等に影響を及ぼすと考えられる領域についても対象とすることでアイデアが拡がります。
例えば、車の企画であれば、「13.モビリティ」だけでなく、「3.遊び・エンタテインメント」や「7.家事・家族ケア」「8.恋愛・友人関係」といったカテゴリーを加えることで、より幅広い興味関心事を調べることができます。
また、どのカテゴリーについて調べるかを決めるには、このカテゴリー間での関連性から設定することもできます。同じく車の企画で見ると、車が属するカテゴリーは「13.モビリティ」です。そして、その「13.モビリティ」と直接的な因果関係が近そうな他のカテゴリーを選ぶのです。それが先の「3.遊び・エンタテインメント」や「7.家事・家族ケア」、「8恋愛・友人関係」です。逆に、因果関係が直接的でなく遠因的なカテゴリー、例えば「11.住まい・住まい方」や「14.社会活動」は対象から外します。
こうして設定したカテゴリーから、人々が興味や関心を持っている目新しいユニークな「新奇事象」を探し出し、そのインサイトを明らかにします。
先ほどの「Fearless Girl」で考えてみましょう。「女性」がテーマになっているファンドなので、「12.マネー・ライフプラン」が直接的なカテゴリーですが、それより特色である「女性」に影響を及ぼしそうなカテゴリーを探すほうが「人間を見に行く」という観点では重要です。
そのように考えれば、「1.美容・ファッション」「5.仕事・働き方」「7.家事・家族ケア」「8.恋愛・友人関係」などのカテゴリーを選ぶことができます。そして、それぞれのカテゴリーにおける目新しい事象、これまでの傾向と異なる事象を探すのです。
そうすると「5.仕事・働き方」において、先ほどのシェリル・サンドバーグの著書に関する注目、そしてセクシャルハラスメントへの加害者側の告発、といった事象をピックアップすることができます。そのようにして事象を集めて、その背景にあるインサイト(=理不尽な現状にあっても、まっすぐな心で立ち向かうことは素晴らしい)を読み解いていけばよいのです。
その探し方や読み取り方についても、この連載の中で紹介していく予定です。
人間を見に行く、そうして得られた人々の興味関心に寄り添うこと。そうすることで、「どっちでもよい」気持ちを「これがいい」に変えていくためのPRアイデアをスムーズに生み出すことができるはずです。
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