パリ・マレ地区生まれの主に紙を使用したプロダクトを展開するパピエ ティグル。国内販売本数No.1のアイウェアブランド、JINS。コラボはある偶然の出会いから生まれた。企画に関わった三者に、その成り立ちから販売に至るまでの経緯を聞いた。
想いと出会いが導いたコラボ誕生のタイミング
—JINSは、さまざまなアーティストやブランドとのコラボ商品をこれまでにも発売されています。パピエ ティグルもそのひとつということですね。まずは、コラボにいたった経緯についてお聞かせください。
斉藤:これは本当に偶然なんですが、以前渋谷のあるお店でパピエ ティグルのことを知って、コラボできたら素敵だなと、思っていたのです。それからしばらくして、2年くらい前になりますが、JINS原宿店のリニューアルオープンイベントに、林さんがいらしていて、お声がけしました。
林:翌日に電話をいただいて、2日後にはJINSの本社で具体的な打ち合わせをしていました(笑)
斉藤:私のほうもすぐにMD担当と上司に話し、社内での決済を取りつけました。
林:当時はまだ日本での直営店を準備している段階でしたし、現在でも国内での認知度は決して高くない新しいブランドなので、私たちにとってはうれしい提案でした。
斉藤:すでに多くのファンがいるブランドとのコラボはもちろん重要ですが、パピエ ティグルにはそのブランドを知らなくても、見た瞬間欲しくなるというパワーがありました。
林:パピエ ティグルのデザインはフランス生まれですが、デザインのなかに潜む繊細さは日本人の感性にも男女を問わず通じる魅力があると思います。
ブランドとプロダクトをつなぐキービジュアルとディスプレイ
—その後、商品開発へと進み、販売直前には販促物制作へと入ります。キービジュアルなどは、パピエ ティグルの国内でのブランドコミュニケーションを統括しているPolar Inc.が担当したのですね。こちら(写真01)のキービジュアルの狙いを教えてください。
林:パピエ ティグルと言えばノートやメッセージカードなど、紙を用いた製品を多くの方が思い浮かべるはずです。そこで、キービジュアルの背景にも紙の色使いや質感を強調しました。
—イグニションズはこれまでもJINS店舗の什器など、店頭ツールのデザインを数々手掛けてきています。今回もJINSからの指名で参画されました。
赤塚:私も実はこの仕事が始まる前に、日本橋浜町にあるパピエ ティグルの店舗をプライベートで訪れていたことがあるんです。ですからプロダクトに対する私なりのイメージはすでにありました。そのときには仕事をするとは夢にも思っていなかったですが。
—ブランドコンセプトなどはすでにわかっていて仕事に入ったということですね。
赤塚:コラボする商品は、ブランドの一部でしかありません。でも、実際に浜町の店に行くとわかりますが、店舗自体が素敵な空間になっています。そうした背景についても踏まえながら、パピエ ティグルの持つ楽しさや遊び心を大事にしながらも、ファンシーになりすぎないように意識してデザインしました。
—ここにイグニションズが制作したメガネのディスプレイ台(写真02)があります。制作にあたって重視したこと、気を付けたことはありますか。
赤塚:パピエ ティグルのプロダクトには風合いのある再生紙が多く使われています。どこか温もりがあって懐かしさを感じる、そのコンセプトを大事にしました。そうした意図もあって再生紙を使っています。また店頭で多くの手に触れられるものなので、強度にも気を配りました。
—通常、販促物はキービジュアルとの統一性を求められます。ディスプレイ台は、キービジュアルとはやや色使いなどが変わりますが、そこに関してはどういった意図があったのでしょう。
赤塚:特徴的な幾何学模様は、パピエ ティグルから提供していただいたものを使用しています。キービジュアルとの色使いの違いは、商品を陳列した場合を想定してのことです。メガネを引き立たせるために、ベースを淡い色にして、そこに模様と挿し色を入れました。ディスプレイ制作においては、商品を引き立たせることが、もっとも大切になります。
—パピエ ティグルとしては、ディスプレイツールに対して細かな注文をつけるようなことはなかったのですか。
林:ディスプレイデザインを開始する前に一度オリエンをさせていただいた後は、VMDツール制作はイグニションズにお任せしました。その後は実寸のモックアップを何度も作っていただいたので、それをベースに直接フィードバックをさせてもらいました。
赤塚:パピエ ティグルのデザイナーとはいろいろアイデアを出し合いました。最終的に採用には至らなかったのですが、建築材を使った小物を使うような面白い案もありました。日本ではあまり見かけないようなツールのアイデアをもらったり、ブレスト自体も面白かったです。
斉藤:店頭ツールは、商品を手に取ってもらうためのカギとなるので、商品販売において大切な役割を果たします。制作にあたっては売場に対する知見が必要なので、経験値がものを言う部分もあるかと思います。このディスプレイ台ひとつとっても、実は別の矩形のものが何種類とあります。店舗の売り場面積などに応じて使用する什器のサイズも形も変わるからです。そうした什器も常にアップデートされていきますから、そのたびにイグニションズに対応してもらって……。かなり苦労をかけていると思います(苦笑)
赤塚:いえ。でもJINS本社の模擬店舗に持ち込んで、そのひとつひとつを検証していくという作業は欠かせません。
—ディスプレイ台についているフィルム状のようなものは何ですか。
斉藤:透明のUV印刷で、メガネを置くためのガイドラインです。これがあることで店舗スタッフが商品陳列に余計な労力を割く時間を減らし、オペレーションに対する負担を軽減できます。
赤塚:ガイドラインの必要性を十分承知したうえで、全体的なデザインの邪魔をしないものにしたかった。その両方の要求を満たす方法が透明のUV印刷でした。
—そうした印刷技術についての知見もあるんですね。
赤塚:当社の親会社が印刷会社なので、印刷技術、素材などについて最新情報と接することができます。それ以外にも過去にはJINSの案件で、アクリルや木材を使用したこともありました。
ブランドとプロダクトをデザインの力でつなぐ
—メガネは2018年の7月に発売されました。売れ行きはどうだったのでしょうか。
斉藤:20代から30代の女性を中心に好調でした。店舗スタッフからも、商品ももちろんですが、キービジュアルやディスプレイなどについても好評でした。
—クライアントとして満足できる結果となったわけですね。クリエイティブ側としては。
林:アイウェアの商品開発からスタートしたという点で、普段の広告制作とはまったく違うアプローチでしたが、携わるクリエイターやクライアントとの協力関係が抜群でした。パリの創業者が来日して承認作業を行った際もすべて一発オーケーでしたし、実にハッピーな取り組みをさせていただきました。
赤塚:もともとファンだったのでこうした機会を持てたことがうれしかったです。また結果としてもすごく好評で、パピエ ティグルの認知度向上にも貢献できました。技術は日々進歩していて、それを使って新しい表現をしていくのは楽しいですね。今後も色々なことにトライしたいと考えています。
斉藤 恵
Megumi Saito
株式会社ジンズ
ブランドマネジメント室ブランドコミュニケーショングループ
林 貴則
Takanori Hayashi
Polar Inc.
creative director / founder
赤塚 純
Jun Akatsuka
株式会社イグニションズ
director / producer
お問い合わせ
ジンズ
https://www.jins.com/jp/
Polar inc.
https://polar-inc.jp/
イグニションズ
http://www.ignts.com/