競技人口が一人ってなに?
イベント名やプロジェクト名にRed Bullと冠が付くものは、全てレッドブルがオリジナルで作ったものだが、その中でも日本で認知も高くかなり根付いているものとして、Red Bull Air Raceがある。2018年に4回目の千葉大会開催が実現したが、その中で活躍しているアスリートに室屋義秀選手がいる。
先日このRed Bull Crashed Ice会場でお会いした際に、この新しいスポーツカテゴリーがどうなって行くのかにとても関心を寄せていた。私もこの競技人口が極端に少ないスポーツをどう育てるのかが気になっている。
さて、エアレースは今やモータースポーツ競技の中でもかなり認知が高いが、実際の競技スポーツ人口はなんと日本で一人である。今回初開催されたRed Bull Crashed Iceより競技人口は少ないし、さらに狭き門である。つまりプロとして、エアレースパイロットと言える人は国内で室屋選手一人なのである。
私がプロと呼んでいるのは、この競技をするアスリート一本で生きているかどうかである。飛行機関連の競技にはエアロバティックスと言われる曲技飛行競技があるが、これはエアレースとはかなり異なる。スポーツ人口が一人の競技がどれだけ存在するのかわからないが、どちらにしてもレッドブル・エアレースに参戦できるアスリート数は限られているので、たくさんいても困るとは思うが、やはり次世代のアスリートは考えないといけない。
アジア人プロとして参戦し、ワールドチャンピオンにまでなるには準備も含めて10年を費やした。2007年からずっとこの状況を見続け、一緒に頑張ってきたことはブランド側の強い意志と周囲にいたメンバーが彼を支えた結果であるが、スポーツカテゴリーとしての成長、後継者など未来について考えていかないといけない時期に来たとも思える。
レッドブルの “翼をさずける”というブランドスローガン通り、このエアレースの彼の姿はまさしくブランドの真髄をついている。飛行機のレースということで、翼繋がりとしても関係値は強いが、全くの無名のパイロットが、ワールドチャンピオンになるまでの10年以上の軌跡を見守り一緒に変遷を辿ってきた。
ブランドの成長において、アスリートと一緒に成長しブランドの特徴をコミュニケーションできる機会を得たことは結果として素晴らしいが、それだけでなく外資系で短期的な観点でKPIを考える思考が多い中、この競技をこれだけ活用してブランドやストーリー、次につながる資産を作ることができたことは信じたチームの努力や本社の経営ポリシーやブランドの本質でもあると思っている。
室屋さんの話に戻るが、彼はレッドブル・ジャパンが2006年末に国内で開催するイベントをサポートしてほしいと声をかけられたことからスタートした。
当時レッドブル・エアレースに参戦している外国人パイロットが国内でショー飛行をするために日本の事情を知っている人が必要で、その時は単なる許可取りやサポート担当だったが、自分から一緒に飛びたいと強くお願いしたそうだ。まずは一緒に飛行する機会を勝ち取り、そのスキルを証明してから、人生は急転した。それまでは曲技飛行の大会には出ていたものの、メインはエアショーを行っていた状況だと思われる。
そんな中、国内市場に参入したばかりで存在感を高めたかったレッドブルが、早速2007年1月にアスリート契約した。彼はアスリートとしても国内では相当早い段階で契約したが、私も同時期に入社し当初の役割の一つが、ブランドのコミュニケーションをとにかくレッドブルのアセットを活用して考えることだった。
厳しい国内飲料市場で無名ブランドのコミュニケーションが課題だった時で、いわゆるTVCMや広告以外でエアレースといったワールドシリーズを活用してブランド力を高められるように考えていこうと話したことは今でも鮮明に覚えている。
正直、このレース自体や室屋さんの存在もそれまで一度も聞いたことがなかったが、もともとモータースポーツ含めスポーツ好きなので世界の象徴的な場所で行われるエアレースのスリル満点な映像に魅了されすぐにファンになった。
当時は誰も知らないブランドと誰も知らないスポーツカテゴリーを掛け合わせて、一体何が生まれるのかと思った人も多かったが、あの映像のインパクトで人の感情に訴えられることはある程度確信できていたことと、メディアの引きは相当強かったこともあり、まずはメディアと連動したストーリーをどう作るかに徹底した。映像インパクトでの訴求、メディアとの連動と日本人のストーリーでどこまでレッドブルのキャラクター特性とそのスポーツの魅力両方を伝えられるだろうかを考え続けた。
ちなみに日本人のパイロットがいたことはラッキーである。外国人だけであれば、ここまで日本国民を魅了することは無理だと思われ、室屋さんはまだ参戦していなかったが、できるだけ彼の口から話してもらうことや日本との接点を考えることがコンシューマーにとって大事だと思った。