熱狂的ファン層のみに頼るマーケティングは成功しない
と、ここまで読んでくださった皆さんは、「うちのブランドにも熱狂的なファンをつくらなければ」と思われたかもしれません。確かに、熱狂的なファン層については、マーケティングの教科書では比較的、好意的に書かれています。しかし、必ずしもそうとは言い切れない面があります。
バイロン・シャープ氏のアレンバーグ・バス研究所においては、自分も以前のコラムで紹介した通り、ロイヤリルティというのはブランドの成長にともなって自然に築かれるものであって、同じ市場シェアを持つ場合、ロイヤルティが高い熱狂的なファン層の比率が圧倒的に高いブランドは存在しないと主張しています。
特にそのようなファン層が多いと言われているハーレーダビッドソン、アップルの顧客層を分析することで、①そのようなロイヤルティの高い顧客自体が少数派であること、②熱狂的ファンであるロイヤル顧客層が購買を増やしても少数のためブランドの成長に寄与する規模にはなり得ないこと、③熱狂的ファン層の二次的な口コミ効果も元々、少数のため大きなものにはならないことを指摘しています。
確かに、さきほどの『カメラを止めるな!』のヒットの仕組みを見ても、ヒットに寄与した熱狂的ファン層は多いとは言い難く、複数回映画を見に行ってはいるでしょうが、それ自体がヒットにつながっているわけではありません。ただし、③の点である口コミ効果が、新しい顧客に届くことで違う役割の人々を動かし、それらが相互に影響しあうことで大きな流れになっていることがわかります。
特に映画の場合、インディーズ映画の上映館ではヒットと言っても高が知れていますので、アスミック・エースがTOHOシネマズに上映館を急遽拡大したことがもっとも大きな要因になっています。つまり、少ない通人やセールスマンが動いても、さらに流れをつくることのできる媒介者が機能しないと、新しい顧客にリーチし彼らが映画に触れることができないのです。
それでは熱狂的ファン層というのは少数ではまったく意味がないのでしょうか。決してそうではありません。なぜなら、まずブランドが主体となってファンとのつながりをつくる意味とは、そのカテゴリーをよく知るヘビーユーザーを知ることだからです。
スノーピークの顧客イベントの初期のころには、たった30人しか集まらなかったと言われていますが、その主旨とは、アウトドア愛好者とのつながりを大事にすることで、そのコア層の求めるニーズや価値を直接聞くことが目的だったようです。それはまさにアウトドア愛好者を通人として見出すことが核であって、単純にブランドのファン層の囲い込みではなかったからです。
したがって、ファン層とは自然に生まれるのではなく、ブランドそのものが目指す目的に反応して集まるということが言えるでしょう。スノーピークの顧客イベントに参加する人は、ブランドが指し示す世界観に共感することからスタートすると言ってよいかと思います。このあたりの順番を勘違いしてしまうと、途端に顧客を見間違える原因になるかもしれません。
例えば地下アイドルというアイドルジャンルがありますが、ここに集まるファン層が求めるものは、通常のアイドルの基準とは違った価値観を持っているそうです。かつて大手音楽レーベルがこのジャンルの人気に目をつけて自社レーベルのアイドルを送り込みイベントで握手会を企画したところ、一人も集まらなかったという逸話を聞いたことがあります。
コア層というのは常にそのあたりの感度に敏感なので、大手レーベルのアイドルと地下アイドルとのファンとの価値観の違いに明確に反応した結果であると言えます。