※本記事は株式会社博報堂のコラムで掲載された記事を表示しています。
本棚を見れば、その人の人となりが見えてくる。
博報堂クリエイター達が「大切にしている一冊の本」を紹介する連載です。
第二回は、博報堂シニアクリエイティブディレクター、「恋する芸術と科学」ラボ主宰 市耒 健太郎です。
僕が選んだ一冊は、宮尾與男著『図説 江戸大道芸事典』です。
親子二代にわたって日本の民俗芸能を研究されている宮尾與男さんという方が、江戸の大道芸を集めて図版もつけてまとめたもの。日本人の芸の原点は、すべてこの本に詰まっていると言ってもいいくらいの本なんですが、これが・・・純粋に笑えるんですよ。ちょっと脳が疲れたときなんかに読むとすごくいい(笑)。
例えば、「辰坊主(たつぼうず)」なんていうのが載っていて、その人は一日じゅう道端で逆立ちをして、頭だけ地面につけてクルクル身体を回す専門家らしいんです。うまく回れたらお金をもらえるという、そういう芸があり、そういう職業が100年ちょい前にあった(笑)。すごくないですか!?
「恋する芸術と科学」ラボで取り組んでいるテーマに河川文化や食文化のリデザインというのがあって、そのどちらにも「江戸」がキーワードになっていました。江戸には、日本中で、酒蔵も、醤油蔵も、酒場も小さな街ごとに栄えていたようで、今で言う多様性×創造性の原型があちこちにあったんです。
いろいろ江戸について調べると、浮世絵に代表されるような美術主体のものが多いのですが、もっとその根底にあるもの、生活自体あるいは「人」そのものがおもしろかったんじゃないかなと考えて、資料を探していたら、この本に出会ったんですね。
僕らは、社会や企業に非連続成長をデザインすることを職業としていながらも、長い間、業界内や同じ時代の仲間とシンクロしていると、その「発想の振れ幅」が小さくなっているんじゃないかと、たまに孤独な危機感を覚えていまして(笑)。時空を超えた妄想ブレストが趣味なんです。
さきほどの「辰坊主」もそうですが、江戸の町には、「一人相撲」というのを商売している人もいたらしいんです。街中で、二人の力士が取り組む相撲を、たった一人で芝居で再現するプロの人がいたと(笑)。
例えば職業ひとつとっても、今って、理系だからエンジニアになりますとか、ちょっと絵心があるからグラフィックデザイナーになりますみたいに、レールがすごく決まってしまっているけど、たかだか150年くらい前には「一人相撲」という職業があった。僕らは自分が生きている目の前の現実をリデザインしようとするから、どうしても5年、10年ぐらいのスコープで見がちなんだけれども、今の社会の常識というのは・・・
市耒 健太郎(いちき・けんたろう)
博報堂 シニアクリエイティブディレクター
「恋する芸術と科学」ラボ主宰
博報堂にて、CMプランナーを経て、CD。2011年、ソーシャルデザインとニュークリエイティブを融合する『恋する芸術と科学』ラボ設立。『恋する芸術と科学』編集長。これまでの特集に「新しい世界制作の方法」「モノヅクリはモノガタリ」「君の言っていることはすべて正しいけど、面白くない」「エコ・エゴ・エロ」「Tokyo River Story」「非言語ゾーン」「食のシリコンバレー|jozo 2050」など。食文化の未来をデザインする「発酵醸造未来フォーラム」の代表も務める。
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