マーケティングを成功させる デル流3つの壁の壊し方

シェア拡大にともないマーケティング部門の強化を目指す、デルが取り組む改革とは

デルは近年、コンシューマー向けの市場でシェアを拡大している。マーケティング施策と組織の強化が求められているというデル。同社のコンシューマー&ビジネスマーケティング統括本部で本部長を務める田尻祥一氏にとって、マーケターの人材確保も大きなミッションだ。デルでマーケティングをしてみたいと感じてもらうために、今、さまざまな取り組みが始まっている。

法人マーケティングの投資効率を改善した手腕を認められて移籍

−田尻さんはこれまでマーケターとしてどのようなキャリアを重ねてこられたのでしょうか。

田尻:2009年にアクセンチュアからデルに移籍してきたのですが、アジア地域の営業企画を担当していました。その後、日本法人に異動し、当時アメリカで買収したセキュリティソリューション企業「セキュアワークス」の日本法人立ち上げに携わりました。

2012年からはソリューションビジネスに関わった経験を生かし、デルのエンタープライズ製品やソリューションマーケティングを統括するポジションでマーケターとしてのキャリアをスタート。その職務に加えて、より売上に貢献できる法人向けマーケティングも統括しました。

チームが一丸となって取り組んだ結果、法人マーケティングの投資効率をアジア太平洋地域でトップにすることができました。その実績が評価され、コンシューマー向けのマーケティングでの取り組みにも生かそうということになり、2014年からコンシューマー&ビジネスマーケティング統括本部本部長に就任し、現在に至っています。

2009年にデルを転職先に選んだのは、オープンで、フラットでスピーディーなカルチャーがあると感じたからです。もうひとつは、グローバルな環境です。働く人、場所はもちろん、キャリアを考えても、日本で働いている人がシンガポールへ行き、その後イギリスへという人もいる。ビジネスパーソンとしてもグローバルに成長できるのではないかと考えました。

消費者とのエモーショナルな結びつきを意識

−現在、取り組んでいるマーケティング上の課題は何でしょうか。

田尻:この数年で私たちは、かつてのコンバージョン重視のマーケティングからの転換を目指してきました。具体的には投資対効果の見直しと効果測定に基づいたブランディングに力を入れています。そうした取り組みのひとつが「デルアンバサダープログラム」。これらの活動は今後も継続していきます。

その上で、さらにふたつの改革に取り組もうとしています。まずはテクノロジーを活用し、社内のマーケティング活動を統合する仕組みづくりです。消費者にデルの製品に興味がない段階で「買ってください」と働きかけても響きません。消費者の状態に合わせ、適切なメッセージを発信することで、より高い確率で購買へつなげられると考えています。そこで、すでにパーツとして存在しているものをCRMやデジタル技術で統合する仕組みづくりに取り組んでいます。

もうひとつが、ブランドエンゲージメントの強化です。デルは、パソコンの液晶画面の縁が細いフレームレスPCを市場にいち早く投入し、アドバンテージを持っていましたが、すでに同じような商品は多く登場し、こうした技術的な進歩による差異化は難しくなっています。

飲料や日用品など、コモディティ化が進んだ他の業界では、コミュニケーションや購買体験を通じて「なんとなく好き」「気持が良い」と感じてもらい、ブランドと消費者のエモーショナルな結びつきをつくることができた企業が成功しているように感じています。

消費者の目線でデルの魅力を発信する、アンバサダープログラムもそのひとつになると思いますが、コンシューマー向けだけでなくBtoBにおいて、法人のお客さまに対しても、より良い関係性を構築できるように、施策を検討しています。

現在、人手不足により、多くの担当者が兼任としてIT関連の業務をこなすことが多い中小企業(スモールビジネス)向けに「スモールビジネスアドバイザー」キャンペーンを実施しています。ささいなことでも私たちのアドバイザーが親身に相談に乗ることで、デルが身近なパートナーとして認知を得ることができればと考えています。

そのために、デルというブランドが冷たいイメージではなく、親しみやすいものだと感じてもらえる、エモーショナルな部分への働きかけは意識しています。先日、日経電子版広告賞のクリエーティブ部門で最優秀賞を受賞した「スモールビジネスアドバイザーキャンペーン」の動画は、そうした姿勢を伝えるものとして制作しました。

次ページ 「マーケターに求められるのは視野の広さ」へ続く

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