アートサイエンスの最先端を議論
新校舎は、大阪芸大の入り口でもある丘の突端に位置する。その立地と従来の校舎になじむようデザインされた、緩やかな曲線を描くスラブが特徴だ。内と外との自然なつながりを重視し、多くの人が交流できるよう、開かれた空間が展開されている。そんな新校舎の竣工を記念して開催された講演会では、大阪芸大アートサイエンス学科の5人の教員と妹島さんによる講演後、パネルディスカッションが行われた。
本講演のテーマは、「Be Artistic & Analitic Be Poetic & Progmatic」。モデレーターを務めたマサチューセッツ工科大学メディアラボ副所長の石井裕客員教授は冒頭で当日の講演を振り返り、「本日の講演で皆さんから出てきたキーワードは、ボーダレスやシームレス。内と外のつながりを重視し、妹島さんが設計した新校舎に通じるものがあった」と話した。
それを受けて、妹島さんは新校舎の設計の考え方について話した。「建築というものは、外にある危険なものや寒さから中のものを守るために、境界をつくります。でも、それによって私たちの生活と外が離れてしまう。そうではなく内と外がつながり、自然など周囲のものに触れていくことができる空間。さまざまな人たちが集まり、一緒にいる人たちの多様さをポジティブに受け止められる、そんなボーダレスな空間を目指しました」。
それを受けて、NAKEDInc.代表の村松亮太郎客員教授は「さまざまなコンフリクトが起こり、確実に多様なものが混じり合う時代。かつて優れた芸術作品は周りと遮断された孤立した状況から生まれてきたが、このボーダレスの状況下で、どんなものが生まれてくるのか。次のフェーズに行くことを考えていかなくてはいけない」と話した。
アルスエレクトロニカのアーティスティックディレクターを務めるゲルフリート・ストッカー客員教授は、ヨーロッパにおけるアートやデザインへの向き合い方の変化について話した。「いま求められているのは、美しい、装飾的なアートではない。社会や政治などの課題に対して、人として何ができるのか、世の中に問いかけたり、そこでの対応を見出していくことができるもの。従来のルールを変えていくゲームチェンジャーであることにアートの役割がある」。
アートサイエンス領域におけるビジュアルの話のみならず、言葉の抽象化や言語の可能性など、深いディスカッションが展開された。最後に、登壇者からアートサイエンスを学ぶ学生たちにメッセージが送られた。「アートとサイエンスをつなぐインターブリッジも大事ですが、まだアートとも、サイエンスとも呼べない領域に踏み込んでいくためにも、アートもサイエンスもディープにわかる、扱える人がもっと増えていくことを期待します」と、筧康明客員教授。
「近い将来、“これはアートサイエンスという領域から生まれたんだ”ということが、どんどん出てくると思います。それによって、みんなが新しいことを考えたり、新たなことを発見できることにつながるはず。いまこの領域を学ぶ皆さんには、ぜひ頑張ってほしい」と、妹島さんはこれから新校舎で学ぶ学生たちにエールを送った。
編集協力/大阪芸術大学