ボイスが2020年代の新・情報プラットフォームになる — 「CES2019」現地レポート③(玉井博久氏)

ボイスを搭載した冷蔵庫も登場

例えば、サムスンはボイスを搭載した冷蔵庫を紹介しています。これまでテレビをつけて、もしくはネットで検索して得ていた天気や交通情報などを冷蔵庫に話しかけるだけで知ることができるようになるのです。

スマートスピーカーにではなく、冷蔵庫に話しかけるというのが、普及を後押しすると感じます。また洗面所にある鏡にボイスを搭載する動きも活発です。スマートスピーカーがなくとも、スマートホームが普及すれば、ボイスによる情報のやりとりは、あっという間に当たり前になるでしょう。

今まで当たり前にある身近なモノにボイスが搭載されていくことを考えると、スマートフォンがガラケーに代わって普及していったスピードよりも、もっと早く浸透するのではないでしょうか。スマートフォンが浸透するのに約10年かかったことを考えると、2025年頃にはアメリカは当然として、スマートスピーカー出荷数第2位の中国、第3位の韓国、そして日本も音声による情報のやりとりが当たり前になってくるかと思われます。

サムスンの冷蔵庫は音声で必要な情報を入手可能にする。

例えば現在、中国に行くと、上海だけでなく天津などの都市でも、ユーザーはボイスを介した情報のやりとりを当たり前に行っています。タクシーの運転手が目的地を音声で入力することはもちろんのこと、日本人におけるLINEのやりとりは、テキストではなく、スマートフォンに向かって声を吹き込んで、それを文字に変換することなくそのまま音声を相手に送り、それを聞いた相手も返事の内容を、声を吹き込んで送り返すというやりとりをしています。

アメリカの西海岸ではクルマを運転するときに「ヘイ!グーグル」と言って行き先を入力するくらいしかまだ見ないにも関わらず、中国ではそうしたやりとりが普通になっています。投げ銭をするライブコマースやTikTokが中国から日本に到来している昨今、アメリカ西海岸よりも中国の影響でボイスというライフスタイルが日本に浸透する可能性も考えられます。

CESを運営するCTAは、今後のトレンドのひとつとして、「バイバイ キーボード、バイバイ スクリーン」を挙げています。上記の様にスマートスピーカーが仮に普及しなかったとしても、あらゆるクルマ、あらゆる冷蔵庫などの家電、鏡など家の中のあらゆるものにボイスが搭載されていけば、人々は自然にキーボードやスクリーンから離れていくでしょう。「お~いお茶」ではありませんが、ただ一声かけるだけで必要な商品・サービスを享受できることを人間は根源的に求めているはずです。

IoTとはあらゆるモノが、AIとディープラーニングとボイスを搭載すること。

CTAはIoTのことをInternet of Thingsではなく、Intelligence of Thingsと再定義しています。あらゆるモノがインターネットにつながるだけでなく、AIとディープラーニングとボイスが全てワンセットでモノに搭載されるというのです。モノがユーザーの使用データを蓄積・分析し、音声でユーザーに提案をするイメージです。前回紹介したサムスンのテレビも、ユーザーがテレビに話しかけるだけで今見るべきコンテンツを音声で提案してくれます。

AmazonもAlexaを搭載しているクルマや家電を紹介。

Amazonの創業者であるジェフ・ベゾスはWebの利用率が急激に伸びていることに目をつけて、インターネットで本を売るビジネスを始めました。1994年です。日本でWindows 95が発売されるよりも前の話です。そこから10年でインターネットは当たり前になりました。情報プラットフォームは、テレビからインターネットに移り、そしてボイスへと遷移しようとしています。商品・サービスを伝える手段がなければ存在していないことと同じです。マーケティングにとって商品・サービスを伝えることも重要な役割のひとつです。そうしたことを考えると、ボイスも2020年代の重要なテーマになることが予想されます。

玉井博久
Glico Asia Pacific Regional Creative & Digital Senior Manager 兼 江崎グリコ アシスタントグローバルブランドマネージャー

デジタルを活用したマーケティングイノベーションでカンヌライオンズなど受賞多数。現在シンガポールでブランド構築とEコマースの融合に取組む。また米国・韓国・台湾・中国・アセアンにおけるグローバルブランドの広告を統括する。著書『宣伝担当者バイブル(宣伝会議発刊)』は若手宣伝部員・初中級マーケターに好評。

 

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