コピーライターは「言葉のインフラ」をつくる人達
中村:澤田さんは肩書がまだまだありまして、高知県の「高知家」。これは何ですか?
澤田:高知県に移住者を増やしたいという依頼があり、2013年からやっている仕事です。四国はお遍路の文化があるので、おもてなし精神が他県よりも異様に強い県民性があるんです。たとえば高知の人の結婚式に行くと、親族席や会社の同僚席に加えて、「飲み屋で会った人席」というのがあるらしいんですよ。これ、あるあるで。
つまり、異様にパーソナルスペースが狭いのが高知県民なんです。家族のような県民性を持っていて、「アットホームだからおいで」と訴えるために、高知家をはじめて。ビフォアと比べると、移住者数が年間、2.8倍ぐらい伸びてるんです。
澤本:そんなに増えたの?
澤田:そうなんです。僕は、言葉は社会インフラだと思っていて、水道やガス、電気と同じですよね。コピーライター的な観点で言うと、「イクメン」という言葉が流布してから、それがインフラとなり、そのインフラの上を通らないといけない風潮がつくりあげられて、だんだん男性が育児に参加するようになりました。言葉のインフラは極論的には0円でつくれるので、いいインフラだと思っていて。
僕は「キャッチ概念」と呼んでるんですけど、コピーライターは一過性で終わる「キャッチコピー」ではなく、「何年も社会に定着するキャッチ概念をつくる人達」と再定義していて。キャッチ概念の研究もずっとしていて、その研究成果の発表の場として、高知家を出したという感じですね。
澤本:すごい。考えに考えられた結果だ。
澤田:『広告批評』という雑誌が昔あったと思うんですけど、天野さんのコラムで「温暖化対策が進まないのは温暖化というネーミングが悪い。それがたとえば灼熱化というネーミングだったら、もっとみんな危機意識を持つ」と書いてあって、なるほどと思ったんですよ。言葉の力ってこういうことなのかなと。
澤本:確かに、温暖化って何かよさそうだもんね。温かい感じで。
権八:ポカポカしそうなね。確かに灼熱化だ。
澤田:他にも、ピケティっているじゃないですか。ピケティは名前がかわいすぎるから格差論と言われても、ホワンと入ってきますよね(笑)。ピケティよりビゲディのほうが危機意識を持つなど、そういうことってめちゃくちゃあるなと思って。
権八:濁音のほうがね。ピケティはかわいいですよね。本はめちゃくちゃ難しいですけど。
澤田:コピーライターは刹那的な瞬間芸を求められがちなんですけど、それはシャボン玉を永遠につくっているようで、コピーライター側としてもしんどいですよね。シャボン玉を3カ月かけて、何億かけてつくって、すぐ割れると。それは疲れるので、僕は若手のコピーライターには「インフラとしての言葉をつくると気持ち的にも楽になる、報われる」という話をよくします。
澤本:そうすると自分がつくった言葉が残るしね。死ぬときにイクメンを考えた人は、自分がつくった言葉が世の中に残って。いっぱい書いたけど、残らずに死んでいくってちょっと嫌だね。
権八:なんで死ぬときのことまで今考えてるんですか?
澤本:最近、そればっか考えてて。
中村:大丈夫ですか(笑)?
澤本:自分の死から逆算して、あと何年で、その間に何ができるんだろうってすごい考えるんだよね。
中村:なんでですか?やり切った感が?
澤本:わからない。人生の折り返し地点というのを一時期すごい気にしていて、だいたいそのときの男子の人生、平均寿命が78歳としたとすると、半分、38、39歳ぐらい。その頃に折り返したと思うの嫌で、まだ折り返してないんじゃないかと言い訳してるうちに、明確に折り返しが終わってるわけだよ。
権八:いやいやわからないですよ。
澤本:僕からしたら終わっていて。折り返してないとすると、この先これだけ生きるのもなかなか辛いなと思うじゃない。今、こうやって楽しく、権八とラジオやらしてもらってます。今、52歳で折り返しまだだとしたら、104歳、100歳すぎてこの場に座ってる人いないから、絶対。すぐに終わりますからって終わってないじゃんと(笑)。
権八:やりましょうよ、100歳まで。
澤本:だって僕らがやってたら老害って言われるよ。誰があのじじいたちをと。
権八:でも今、人生100年というじゃないですか。実際、澤本さん120歳ぐらいまで生きるんじゃないですか。
澤本:何それ。どういう意味で僕が。
権八:適当ですけど。でも長生きしそうじゃないですか。
澤本:どうだろう。でも最近、テレビで『大恋愛~僕を忘れる君と』というドラマがあったけど、その中で若年性痴呆症ということをやってるわけですよ。ムロツヨシと戸田恵梨香が。それを見て、たまに自分が若年性痴呆じゃないかと思うわけ。まぁどうしようもないよね。歳だからね。
権八:いやいや、若年性痴呆はみんな自分に対して疑ってますよ。僕もよく疑ってるし。ビックリするぐらい物忘れ激しくなりますよね。
中村:僕も何も覚えてないです。
権八:洋基くんは酔っ払いすぎでしょ(笑)。それもあるよね。俺はたとえば外国のタレントの名前とか。
澤田:それはカタカナがいけないと思っていて、カタカナは外来語を言語に落とすときのソリューションとしてよくないと。パッと見で識別できないのは言葉として欠陥構造をはらんでるなと。あと、今の話で言うと、主観年齢が大事で、自分は若いと思い込んでる人は結局長生きするという研究があって。広告業界の人は自分が若いと思ってる人多いから、それで肌つやとかいいのかなと。
澤本:でも広告業界の人って早死にすると言われてたよね。
澤田:ハードワークで。
中村:全然違いますよね。こういう澤田さんみたいな人もいれば、世の中の人が広告代理店に抱くイメージはラグビー部出身で、短髪で、肉体は黒く光り輝いて、うぉーす、いくぞおらーみたいな。まさに人種のるつぼ、縮図かもしれないですね。
澤本:そうだね。ラグビー部でてかてかした人たちはいないよって言いたいけど、いっぱいいるもんね(笑)。黒テカの人達。
澤田:2割ぐらいは(笑)。