空間デザインから体験設計へ
展示会のブースデザインを主軸にスタートした博展は、その後グラフィックや映像、空間を拡張するデジタルなどさまざまな表現を取り入れながら、“体験者の気持ち” を設計するエクスペリエンスマーケティングの領域へと事業を進化させてきた。
その強みは、数多くの現場経験を通じて得た、人が動く体験設計の知見や実現のためのフィジビリティのノウハウを、社内に有することだ。現在同社はほとんどがクライアント直案件で、単発の依頼をきっかけに、年間を通じた空間・イベント施策の制作パートナーとなっていくケースが多いという。
同社 コミュニケーションデザイン本部 クリエイティブディレクターの南正一郎さんは、「ポップアップショップの急増からもわかるように、SNS などのツールが進化した今だからこそ、リアルな接点で伝えることの価値が高まっています。僕らはフィジカルな体験でしか伝えられないことは何か?を長年追求しており、クリエイティブのベースもそこにあります」と話す。
博展でクリエイティブを手がけるコミュニケーションデザイン本部(HAKUTEN CREATIVE)には、クリエイティブディレクターを筆頭に現在73 名が在籍する。
同本部クリエイティブディレクターの桑名功さんは、「クライアントから受けたオリエンの内容に応じて、つど必要なスキルを持ったメンバーを集め、チームを編成しています」と話す。同本部には空間デザインに加え、デジタルやグラフィック、映像など各領域のスタッフも揃う。さまざまなコンテンツを組み上げて、体験のストーリーを構築している。
デジタル領域に強みを持つデザイナー/アートディレクターの鈴木亮介さんは、「空間や体験をデジタルの力で拡張させることに取り組んでいます。空間とそこにあるコンテンツの境目をあいまいにし、融合させていくことで気持ちを揺さぶる体験をつくっていきたい」と話す。
また、クリエイティブをさらに強固にするため、外部の専門性を持つクリエイターらとも柔軟に組む。例えば映像やデジタル・テクノロジーの一線で活躍するWOW やライゾマティクスなどと組むことも近年では増えてきた。「その方が相手は自分の強みに、僕らも空間の強みに特化でき、相乗効果でいいものができます。逆に彼らからも、僕らに空間領域で声がかかるケースも増えています」(桑名さん)。
まだ世の中にない体験とそれを最大化する演出
WOWとチームを組んだ事例として、2018年夏に東京ミッドタウンで実施した「光と霧のデジタルアート庭園」がある。夏の集客施策で、クライアントからは「『花火』を軸に、日本の夏の涼を表現してほしい」と要望があった。
そこから、“縁側で涼んで花火を見る” 日本の夏の原風景を新しい体験に変えようと、ミストと音と光の映像の演出で花火を表現した。ミストを使った演出は同社にとって初の試み。同社では新しい体験を生み出すための新しい手法や素材の研究を進めており、そこから生まれた演出だという。
「最近では光・風・水といった自然現象を使った演出の開発にも取り組んでいます。再現性のない不確実な体験は、人をよりその場に留める効果を生み出し、深く人の心に残っていくと考え、積極的にチャレンジしています」(桑名さん)。
博展は2018年、中期ビジョンを「ココロ揺さぶる瞬とき間を創り、世の中を次へ動かす」と定めた。
「これからはクライアントワークだけでなく、自分たちで社会課題へのアプローチも考え、実行していく。そんな意思を込めた言葉です。生活空間に近い広場や公園などの公共の場でも、僕たちの持つクリエイティビティは貢献できるはず。また、そのために体験の価値をもっと正しく世の中に伝えていく必要もあります。そこで、体験による成果を明確化する『体験の効果測定』にも取り組んでいきます」と南さん。
体験自体を誰よりも研究し、その効果を明確にすることで、世の中に体験の価値を広く発信していきたいと考えている。
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