「面白い」を決めるは誰?【芸人・五明拓弥 × マーケター・井上大輔 対談】前編

マーケティングでネタ作りは成立するのか

井上:お笑いの世界でも、西野カナさんみたいなネタの作り方をすることってあるんですか?

五明:アンケートをとることはありませんが、「キングオブコント」や「M1」に向けたネタの作りこみがそれに近いかもしれない。普段の寄席やライブでお客さんの反応を見ながらネタの内容を少しずつ変えて調整していくんです。そうやって完成させたものを大会に出すので、普段の寄席やライブが調査のようなものですね。

井上:それはマーケティングに近い作り方ですね。もっとマーケティング的にやるとするなら、細かくアンケートを取って調整していくんです。「ここに入れるモノマネは、杉本哲太と白竜と菅原文太のどれが面白いですか?」と。

五明:それは面白い(笑)。お笑い芸人は自分が面白いと思ったことを表現する、というスタンスの人がほとんどですからね。お笑いをマーケティングで考えたら今までにないものになりそうです。

井上:広告でいうとマーケティングは「気づいてもらい、覚えてもらい、好きになってもらう」ことだと思っています。例えば、シャンプーを買おうと思った時、人は頭の中にいくつか選択肢を思い浮かべます。ダヴにしようか、パンテーンにしようか、ツバキにしようかと。そしてそれを探しに売り場の棚に向かうわけです。すると、どれも同じくらいの値段なので、パッと一つ選ぶ。そこに明確な理由はないんです。

ただ、統計的には、商品に対する好意度が高い方が選択されやすいことがわかっています。だから好きになってもらわなければいけない。

五明:だからシャンプーにタレントの顔のシールが貼ってあるんですね。

井上:たとえば「広瀬すずちゃん、かわいいな」という好感度が、商品に移って選択されるようになるわけですね。コピーも同じで、消費者に「なんかいいな」という感情を作りだすために作ってもらっていると思っています。

五明:そう考えると、お笑い芸人がマーケティング調査をして、「おもしろい」と思われる確率が高い要素を盛り込んだネタを作れば、当然ウケる可能性が高くなるということですよね?

井上:そうなりますが、ビジネスではどれが響くのか調査をすることは正しいと思いますけど、お笑いのような芸術の領域はどうでしょうね。西野さんのようなポップソングはコマーシャル的な要素があるのでアリだと思いますけど。

五明:そうか…。ミュージシャンでも、長渕剛さんがそれをやっていたらショックだな。やってほしくないです。長渕さん自身のこと、長渕さんのありのままの言葉が好きだから。

井上:本なんかもそうですよね。感性が重視される芸術やアートの領域は、がむしゃらにやっていくこれまでのやり方が残るかもしれません。お笑いもそうかもしれない。だけど面白いと思いませんか?事前調査をしてネタを書く芸人って。

五明:さっきから、やってみたいと思っていました。調査して作ったネタなら、すべったとしても、「みなさんに聞いてウケる確率が高いと出たから作ったのに、なぜ笑わないんですか。ウケないのはお前らのせいだ」と言えるわけでしょう。それっていいですよね。いただいてもいいですか(笑)。

井上:アハハハハ。もちろんどうぞ。やってみて、すべったらすべったで面白いかもしれないですね。

井上大輔
アウディジャパン/メディア&クリエイティブマネージャー

ヤフーでプロデューサー、ニュージーランド航空、ユニリーバでデジタルマーケティングの責任者を歴任し現職。advertimesコラムニスト。
ツイッター:@pianonoki | 著書に「デジタルマーケティングの実務ガイド

 

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