日本とドイツの共通点は、自己肯定感が低いこと
石川:いや、そこでは健康政策が専門で、ウェルビーイングをやるようになったのは最近なんですね。自分には扱いづらいテーマだと思っていて、取っておいたというか。
中村:これを聞いてるリスナーは深夜にラーメンすすりながら、「俺は健康だから大丈夫だろう」と思ってるはずなんですよ。そのへんに関しては何かないですか?
石川:いっぱいありますよ。不思議だと思いませんか? たとえば体重を測りたいと言ったら測れるじゃないですか。でも、幸せを測りたいというときに、まずどうやって測るんですか? そもそも幸せって何ですか? となるじゃないですか。これおかしくないですか?
なんで21世紀のこのご時世になって、いまだに幸せがよくわかってなくて、測定するものがないのかと。ここに僕はチャレンジしてるんですね。世界共通の心の豊かさを測る指標を…実はちょっと前まではGDPという指標で豊かさを測ってたんですね。
中村:そうですよね。
石川:幸せというのはどちらかというと、これまでは哲学、宗教の人が扱ってきていて、科学の人は敬遠してたんですね。宗教の人がやりすぎていたから、科学が必要以上に引いていたところがあると思うんですけど、そのぶん目の前に病気などいっぱい苦しいことがありましたから。
うつ病、心臓病、問題がいっぱいあったので、20世紀はそこに手をつけてたんですけど、21世紀になって、いろいろな問題も片付いてきた、本丸行きますかというので、宗教、哲学の分野だった幸せ、満足度、豊かさって何だろうというのをいよいよ僕らが本気出していきはじめたという状況なんです。
まず手始めに僕がやってるプロジェクトの1つが、世界170か国で幸福度を測るというものです。1カ国1000人ぐらいにインタビュー調査して、1000人×170カ国を毎年やってるんです。ランキングをつくってるんですけど、単純に幸福論はどう定義されているかというと、日々の体験でポジティブなことが多くて、ネガティブなことが少ないのが簡単な幸せの定義なんですね。
たとえば今日はよく笑ったな、学んだなというポジティブが多くて、怒ったり、悲しかったり、不安だったり、ネガティブが少ないという。そういうのを聞いてるんです。
それで言うと日本は、ポジティブは少ない国なんです。
中村:へー!
石川:世界ランキングで見ても少ない。60位ぐらいでしたね。一方で、ネガティブな経験をしているのも少ないんです。世界トップテンに入るぐらいのマイナスがない国・日本。普通はポジティブが少ないとネガティブが多いんですけどね、日本はポジティブもネガティブも少ないという。
権八:ときどきマスコミでは自己肯定感が特に若い人は低いとニュースになるじゃないですか。自分達は幸せじゃないと思ってるのかな、という印象はあるんですけど、そうでもないんですか?
石川:そうですよ。日本とドイツは自己肯定感が低くて、もっと自信持てばいいのに、というのは他の国の人はよく言いますけどね。
権八:敗戦国だ。
石川:それがなぜなのか、ずっとそうなのかはよくわからなくて。別のデータがあるんですけど、日本人が自分達に自信を持っていてハッピーだった時期は戦後2回だけあるんです。国が国民生活選好度調査というので、どれだけハッピーかを毎年取ってくれていたんですね。それで言うと、1回目が1964年なんです。
権八:あ、オリンピック。
石川:そうです。前回の東京オリンピック。ここだけ飛びぬけてピーンと高いんですね。もう1個同じぐらい高いときがあって、それは1996年なんですよ。95年に阪神淡路大震災があって。
権八:オウムの地下鉄サリン事件もその年だよね。
石川:だから95年は際立って低いんですね。でも96年に劇的な回復を見せて、東京オリンピックと同じぐらいの幸福度になってるんです。
権八:え、なんで?
石川:なんでかと思うじゃないですか。僕いろいろ調べたんですよ。ウィキペディアで。
一同:(笑)
石川:96年に何があったんだろうといろいろ見たんですけど、これしかないなと見つかりました。