全員が同じマーケティングをする必要はない
本間:せっかくトークイベントに参加してくださっているので、ここからは会場のみなさんとお話しながら進めたいと思います。何か質問はありませんか?
質問:総合広告会社に勤務しています。社内の考え方を、マス広告をどんどん投下するという考え方から、データを使って消費者と向き合う方向に切り替えていきたいのですが、ハードルを越える方法を教えてください。
本間:日本でマス広告を認知向上に使うのはすごくいいと思います。一方、デジタルコンテンツやイベントは購買行動を促進するところで有効です。僕は「ハイブリッド(混合する)」という言葉を使っていますが、もうマスマーケティングなのかワン・ツー・ワン・マーケティングなのかという時代ではなくて、これらをどうミキシングして使っていくかということだろうと思います。
山名:どの局面でマスを使い、どの局面でデジタルなのか、そこをしっかりと組み立てていく必要がありますよね。そういうやり方にはまだ勝ちパターンがないので、広告会社の強みを生かした提案ができれば、クライアントさんにも興味を持ってもらえるのではないでしょうか。
本間:これまでマーケターは1回目の購買や1回目の契約に重きを置いて、そこをゴールにしてきました。ソーシャルメディアに出てくる言葉で言えば「買ってみた」「使ってみた」という言葉が出てきたら、そこでマーケティングは終了でした。しかしこの「~みた」というのはワントライにすぎません。ゴールにすべきは継続使用、すなわち「今月も買った」とか「使い続けている」という言葉です。そこに到達するには、「~みた」の後に何らかの刺激を与えて購買を日常化させなければいけない。そこまでやってマーケティングです。その設計ができるようになれば、ロングタームのロイヤリティマーケティングができるはずです。
質問:ターゲットを絞りヒアリングを行って商品を開発しているのですが、たくさんあるデータの中で何を優先すべきなのかいつも悩みます。
本間:今はプロダクトアウトからカスタマーセントリック(顧客中心主義)への過渡期なので、これからはお客さんの希望を優先することがキーになるでしょうね。
本には書きませんでしたが、今は第三次産業革命から第四次産業革命への移行期になっています。これまでは一つの産業革命から次の産業革命が来るまで数十年ほど間隔があいていました。ところが今、第四次は第三次と重なるようにやってきている。多くの企業がまだ第三次産業革命の恩恵でビジネスをしています。これが第四次産業革命になるとビッグデータとIoTやAIなどを組み合わせて、顧客の希望にあわせた、個々にカスタマイズしたサービスをどこまで発想できるかが肝になります。これを実行するには頭のトレーニングが必要で、僕らは今そのトレーニングをやっている最中なのです。
例えば洗剤なら、各家庭にカスタマイズした成分や容量の洗剤を作ることができます。しかし、お客様がそういうサービスを望んでいるかどうか、コンセンサスが得られていないとサービス化は難しい。お客様が望んでいることがキーになるというのはそういうことです。
山名:最近国際線のサービスが大きく変わりました。以前は大画面ですべてのお客さまに同じ映画を見ていただくしかありませんでしたが、今は個人モニターでそれぞれに映画や音楽などを楽しんでいただけるようになりました。国内線もWi-Fiがつながるようになり、お客さまご自身がお持ちのデバイスで自由にチャンネルを選べるようになりました。
今はまだ、こちらで用意したメニューの中からお好きなものを選んでいただくところでとどまっていますが、座席の個人モニターとお客さまとのネット上のデータが紐づくようになれば、もっときめ細やかなサービスが提供できるようになるでしょうね。
本間:そういうカスタマーセントリックは今後キーになると思います。すでにやれることはいろいろとありますが、先ほど言ったように、どこまでやるのかという問題が、特にサービス領域においては確実にあると思います。
僕が今回この本に『シングル&シンプル マーケティング』というタイトルをつけた理由は、全員が同じマーケティングをする必要はないという僕の考えを伝えたかったからです。ANAとJALの違いは何か?答えは「マーケティングの考え方が違う」ということです。マーケティングの考え方が違うからブランドカラーも違うし、ユーザーのカラーも違うわけです。花王とP&Gとライオンの違いも同じです。僕はそれぞれマーケティングが違うこと自体に意味があると思っています。
コトラーは著書の中で大胆にも時代を先読みして「マーケティング3.0」とか「マーケティング4.0」という概念を提唱しました。僕は非難されることを承知の上で、「マーケティング5.0」と言う代わりに、『シングル&シンプル マーケティング』という言葉を作りました。日本は日本なのだから、日本のマーケティングを考えた方がいい。みんなどんどん自分のやり方やネーミングのマーケティングをやっていけばいい。そういう風に考えることができたら、僕らマーケターはハッピーになるのではないか。そう思ってこの本を書きました。
『シングル&シンプル マーケティング』
大量生産、大量消費を目指すのではなく、対話+データ分析で個人に寄り添う、これからのマーケティングを、宣伝会議の人気講師、本間充氏が提唱。利益を伸ばしたいマーケター必読。好評発売中!