世界初オンデンザメの4K撮影プロジェクトはどう進んだのか?

「クリエイティブ、マーケティング、販売促進、新規事業、広報など、様々な分野で成果を出すことのできたプロジェクトは、どのように進められたのか?」を、可視・構造化して解き明かすインタビュー企画。今回は、2018年12月から始まった4K放送で、世界初のオンデンザメ撮影に成功したプロジェクトを対象に、『予定通り進まないプロジェクトの進め方』の著者前田考歩氏が、テレビ朝日映像とBS朝日の「Deep Frontier Project」について、番組の総合演出を担当した渡部露子さんに伺いました。

前田:渡部さんとは、私が講師を務める宣伝会議の「Web動画クリエイター養成講座」で知り合いました。懇親会の席で今回のインタビューのテーマである、世界初のオンデンザメの4K撮影に成功したプロセスの話を聞いて、これは凄いプロジェクトだなと。

アウトプットは映像作品ですが、まだカメラが降りたことのない、未知の深海の世界で、何が撮れるかわからないという不確実性の高いプロジェクトの進め方は、世の多くの新規事業や新サービスを手掛けるプロジェクトマネージャーやプロデューサーの役に立つと確信しました。

このプロジェクトの進め方を、プロジェクトの状況を可視化する『プ譜』(※下図参照)で書き起こして、わかりやすく構造化したいと思います。まずは、渡部さんが進めたプロジェクトの概要を教えて頂けますか?

渡部:私は もともとBS 朝日で 「遥かなる深海大冒険」という番組をやらせて頂いていました。「Deep Frontier Project」は、2018年12月1日の4K放送スタートにあたり、その時の目玉番組として、「オール4Kで深海ものの番組をつくれないか」ということから声がかかりました。いくつか案を出して、日本の海をすべて4Kで撮影し、日本一深い湾である駿河湾の最深部2,000m超えの海底にカメラを入れるという企画になりました。

前田:プ譜では、まずプロジェクトの最終ゴールとなる「獲得目標」と、その目標がどうなっていたら成功・達成したと言えるかという判断基準や評価指標である「勝利条件」を書くことから始めるのですが、今回のプロジェクトでは、獲得目標が「4K放送に相応しい、深海番組を撮影・制作する」で、その勝利条件が「オンデンザメを撮影する」だったんでしょうか?

渡部:駿河湾は深海サメ王国なので、 深海ザメは何が何でも撮りたい。ただ、オンデンザメなんて夢にも思っていませんでした。というのも、深海ザメにはビッグ2と呼ばれるサメがいて、一つがオンデンザメ、もう一つがカグラザメです。ただ、これは「撮れたらいいな」という理想で、より重要だったのは、とにかく4Kカメラを駿河湾の沖合い2,000m~2,500mの最深部に入れるということでした。

前田:勝利条件はオンデンザメの撮影ではなく、「最深部に4Kカメラを入れること」だった。

渡部:ただ、カメラを入れればいいというわけではありません。4Kで撮影するものとして、文化遺産や後世に残すべき価値のある古民家、その藁葺き屋根などを綺麗に撮るのなら、すごく意味もあるし、 「今そこにあるもの」なので撮影することが簡単なんです。でも、水深2,000m級の最深部に何が生息しているかも分からない、どうなっているかもわからない、そんな未知の世界にカメラを入れて、もし生き物がいたとしても、たまたま沈めたカメラの目の前に生き物が現れてくれるかというのは、相当胃が痛いものでした。

前田:つまり、最深部に4Kカメラを入れるだけでなく、番組として成り立たせるものにする必要があったということですね。それが勝利条件だったと。プ譜では、勝利条件を果たすための「あるべき状態」のことを「中間目的」と呼ぶのですが、今回の勝利条件を果たすために、どのような「あるべき状態」をつくりだす必要があったでしょうか?


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予定通り進まないプロジェクトの進め方
ルーティンではない、すなわち「予定通り進まない」すべての仕事は、プロジェクトであると言うことができます。本書では、それを「管理」するのではなく「編集」するスキルを身につけることによって、成功に導く方法を解き明かします。

次ページ 「水深2,500mに耐えるカメラをつくる」へ続く

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